■文芸評論家・斎藤美奈子
(1)『ミシンと金魚』(永井みみ 集英社)
(2)『まっとうな人生』(絲山秋子 河出書房新社)
(3)『しろがねの葉』(千早茜 新潮社)
(1)は2021年のすばる文学賞受賞作。認知症気味の高齢女性が語った自らの人生は、凄絶なのにユーモラス。冗舌な語りに舌を巻く。(2)は人気作『逃亡くそたわけ』の続編。結婚して富山県に移住した主人公の花ちゃんが、コロナ禍に翻弄される日々を描く。(3)は戦国末期の石見銀山(島根県)を舞台に、女人禁制の鉱山で働く少女を鮮やかに描いた時代小説。世界遺産の鉱山ががぜん輝きを増す。
■作家、編集者・佐山一郎
(1)『弱いニーチェ』(小倉紀蔵 筑摩選書)
(2)『経営リーダーのための社会システム論』(宮台真司、野田智義 光文社)
(3)『東京四次元紀行』(小田嶋隆 イースト・プレス)
(1)はニーチェの新解釈が冴えわたる。ダブルスタンダードの時代に出会うべき世界哲学の真髄。(2)は「世直し」のための多様な視座が学べる講義録。宮台氏襲撃事件後に再読したあとがき中の「社会の荒廃は、失敗や事故ではなく、ひとつの自然過程として今後も進むだろう」の箇所がとりわけて辛い。(3)は希代のコラムニスト生前最後の仕事でショートストーリー集。初挑戦の楽しさが伝わってくる。
■文芸評論家・清水良典
(1)『くるまの娘』(宇佐見りん 河出書房新社)
(2)『ゴジラS.P<シンギュラポイント>』(円城塔 集英社)
(3)『踊る菩薩』(小倉孝保 講談社)
(1)は『推し、燃ゆ』で芥川賞を受賞した若い作家の最新作。痛々しく、そしてどこか神聖な傑作。(2)は、ご存じゴジラを著者が書き下ろした異色小説。SF的発想と、純文学的実験の限界に挑戦するような、怪獣の「意識」の描き方に驚かされる。(3)は、昭和のストリップ界で伝説となった一条さゆりの評伝である。新聞記者である著者のスタンスが、冷静で公平であることが感銘を深めている。