■文芸評論家・陣野俊史

(1)『異常(アノマリー)』(H・ル・テリエ著、加藤かおり訳 早川書房)

(2)『宝ケ池の沈まぬ亀』(青山真治 boid)

(3)『李良枝セレクション』(温又柔編 白水社)

 小説として完璧な一冊が(1)。ノワールでありながらユーモアを含み、恋愛小説と同時にSF。様々な文学の粋を結晶させた小説。多様な語りで構築される現代世界は、すでにコロナ後でもある。素晴らしい。(2)は惜しまれつつ世を去った映画監督の日記。彼が類いまれな文才の持ち主であったことも教えてくれる。(3)は韓国と日本の間で揺れた、夭折の作家の選集。没後30年、新しく李良枝を読む。

■文芸評論家・末國善己

(1)『かくして彼女は宴で語る』(宮内悠介 幻冬舎)

(2)『愚者の階梯』(松井今朝子 集英社)

(3)『プリンシパル』(長浦京 新潮社)

<牧神(パン)の会>の会員が推理合戦を繰り広げる(1)は、芸術と政治の関係を問うテーマも鮮やかだ。1935年を舞台に、歌舞伎界で起こる連続殺人事件を描いた(2)は、言論弾圧が探偵の推理に影響を与える展開が現代と似ており考えさせられる。嫌っていたヤクザを継いだ女性が、圧倒的な暴力と謀略戦で組織を拡大する(3)は、虚実の皮膜を操り現代に繋がる戦後史の闇を掘り下げた手腕に圧倒された。

※記事後編>>「今年の『おすすめ本』はどれ? 書評執筆陣が選んだ『私のベスト3』」はコチラ

週刊朝日  2023年1月6-13日合併号

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