前書きがストイックだ。「ノスタルジアと装われた無関心。いずれの立場をとるにしても、あの5年間に日本社会が潜り抜けた文化的体験を、言説として浮かび上がらせることはできない」

 本書は1968年から72年までの政治の季節を振り返り、当時の文化状況をその空気感まで記録しようと試みる。編著者の四方田氏の峻厳な言葉からは、証言記録を残さなければならないという使命感が伝わる。美術や演劇、ファッションといった章立てで、執筆者はそれぞれ異なる。抑制された筆致で客観性が高くかつ情報が網羅され、当時を知らない私にとって大変勉強になった。しかし本書の最大の魅力とは、抑制のうちにもにじみ出る執筆者たちの当時への思いの強さであろう。私の知らないあの時代の熱量が残っているように感じられた。

週刊朝日  2018年2月16日号