作家・コラムニストとして活動するせきしろさん。初めての著書である『去年ルノアールで』は、無気力文学の金字塔として高く評価を受け、2007年には星野源さん主演でドラマ化されました。また、又吉直樹さんとの共著『カキフライが無いなら来なかった』と『まさかジープで来るとは』では、定型俳句である「5・7・5」のリズムや季語を取り払った自由律俳句に挑み、俳人としても活躍を見せています。そんなせきしろさん、本はあまり読まないといいますが、そのなかでも思い入れのある本についてお聞きしました。
------さっそくですが、思い入れのある本についてお聞かせいただけますか?
「芥川龍之介さんの『トロッコ』ですね。これは僕が幼少期に国語の教科書で読んだ作品で、タイトル通り子どもがトロッコを押す話です。ある子どもが工事現場で働く大人たちを見てトロッコをずっと押したいと思っていて、あるとき大人と一緒に押させてもらえるんです。その子はトロッコを押すのが楽しくてずっと押していたいと思うんですね。でも、突然その大人に『もう帰りなさい』と言われて、そこから泣きながら帰るんです」
------どんなところに心打たれた感じでしょうか?
「大人に帰っていいよと言われた瞬間の感情にものすごく共感してしまって。もう地獄じゃないですか、ずっといていいと思ったのにそうじゃなかったっていうのが。僕自身も『お前はもういい』って言われるような、そういう感じのことが昔から多くて、そのたびにこの作品を読んでいました。なんていうか疎外感かな? 昔、親戚の集まりなんかが終わって、大人がお酒を飲んでるからそこにいるじゃないですか。こっちはそのままずっといたいんですけど『もう寝なさい』と言われて、その時間が終わりになっちゃう。そこに怖さもあり、絶望でもあるし...だけどそこが本当に共感しましたね。まさにこれは自分だなと、人生において一番影響を受けた本かも知れないですね」
------なるほど。その後に出会った本についてもぜひ教えてください!
「志賀直哉さんの作品は好きだったのでよく読みましたね。これも国語の教科書か国語便覧で読んだと思います。そのあと、確か二十代前半の頃に沢木耕太郎さんの『深夜特急』を読みました。僕が唯一読んだアクティブな本なんですけど、これを読んで一人でタイに行ったんです。タイに行った事実だけほしくて(笑)。でも入国のやり方もわからなくて隣にいた人のを見ながら書類を書いていたし、着いてから何をしたらいいかもよくわからなくて。タイに行った事実だけほしかったから着いたら観光もせず、ずっとホテルにいました。沢木耕太朗みたいなのは無理だと思いましたね(笑)。ただ、2回目に女の人とタイに行ったんですが、僕は1回来ていたのでタイを知ってる感じはすごい出せましたね(笑)」
------せきしろさん、ありがとうございました! 後編ではせきしろさんが何度も読み返すという本をご紹介します。
<プロフィール>
せきしろ/1970年、北海道生まれ。作家、コラムニスト、俳人。自身の著書に『去年ルノアールで』『不戦勝』『妄想道』などがある。共著には芸人の又吉直樹さんとの『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』があり、自由律俳句を披露した。また、同じく芸人のバッファロー五郎Aさんとともに『煩悩短編小説』を手掛け、様々な世界観を演出している。