今や共働きが多数派で、働きながら子育てすることが大きな負担となっています。制度や常識が団塊世代仕様のまま、更新されないからです。母との関係に悩む娘も、母に頼って子育てするしかない。すると新たに、孫に執着する祖母という問題が生じます。また超高齢社会では、娘に毒親扱いされて憤慨した母親自身が、九十歳を超える老いた母親の介護を通じて娘としての怒りを自覚することも。母娘問題は、三世代を視野に入れて考えるべき時代なのです。
それにしても、誰が私たちを追い詰めているのか……。家庭よりも組織を、個であることよりも、あるべき役割を演じることを強いる見えない圧力が家族を分断し、老若男女を生きづらくさせているのではないかと思います。
いわゆる毒親問題は、男女や個々の家族の枠を超えた、世の中全体の問題として議論されていくべきでしょう。私は、これこそが日本の社会の歪みの本丸だと睨んでいます。母娘問題は、信田さんの言う“これまで支配的だった家族観への反逆”の始まりなのです。茶の間からの革命と言えるかもしれません。その最初の十年を振り返る本書は、最も弱く声なき場所であった母娘のカプセルの中に、大いなる呪いを解く鍵が封印されていたことに気づかせてくれるのです。