団塊世代の女性たちは、きっと戸惑っているでしょう。一生懸命に家庭を切り盛りし、教育熱心な主婦として子育てに注力してきたのに、ある日突然、娘に非難されたのですから。自らと同世代のそんな女性たちに対して信田さんは、なぜ自分自身の人生を生きず、娘に執着する生き方を選んだのかと、悔しさを滲ませます。そこで光を当てたのは、母娘問題の死角になっている男性たち。長時間労働で家庭を顧みず、男尊女卑的な価値観に囚われた団塊世代の夫の存在です。実は母娘問題の遠因は、父の不在なのだと。
しかし彼らもまた、非人間的な働き方や「男らしさ」を押し付ける社会の犠牲者と言えます。いわゆる毒母問題に対して、男性がときに冷笑的な態度を見せるのは、秘密を暴露された焦りや、痛みを公言できる女性への嫉妬ゆえではないかと感じることがあります。
母子問題は、男性にも埋蔵されているはずです。何もかも丸抱えで私生活にも首を突っ込んでくるという点では、会社と毒母はそっくりですから。毒親ブームは、人間らしい暮らしを送れない働き方を強いる社会への、異議申し立てなのかもしれません。