まさに「飯テロ、極まれり」。深夜1時にこれでもか、というほど甘味を見せられる「さぼリーマン甘太朗」。正直、全然期待していなかったし、私は甘党というわけでもないのだが、自分でも不思議なほど引きつけられている。
それにしても、連ドラ初主演となる尾上松也の役作りが素晴らしい……と書くのは正しくない気がする。すべての顔面神経を使い、一切の羞恥心を排除した演技は、「これ以上、気持ちいい顔が表現できるのか?」と考えさせ、「薬物中毒者と紙一重では」と心配してしまうレベル。ここまで誇張したキャラをクソ真面目に演じられる役者は希少であり、しかも演じているという印象はない。松也に甘党の飴谷甘太朗が憑依したというより、実在するとしか思えないから、テレビの中にある甘味を食べたくなってしまうのだろう。カッと見開いた目、半開きの口、気品に満ちた通る声。いずれも「おんな城主 直虎」で今川氏真を演じているときよりも、大河ドラマ風の演じ方に見えるのが面白い。
あんみつなら小豆や白玉、かき氷なら削った氷やホイップクリームをひたすらハイスピードカメラで映し、蜜を頭からかぶるなど甘太朗の妄想を映像化したVFXを乱発。「ここまでやるか」と思わせる演出には賛否があって当然だが、だからこそ異次元な仕上がりになっている。原作漫画を誇張してエンタメに昇華させたという意味で、往年のアニメ「ミスター味っ子」を思い出させる仕上がり。ともあれ、原作漫画ファンが喜ぶ見事な実写化なのは間違いない。
要するに、こだわりと悪ふざけのハーフ&ハーフな作品なのだが、「孤独のグルメ」「ワカコ酒」「女くどき飯」「ラーメン大好き小泉さん」、そして当作。老舗、定番、穴場、変わり種まで、すべて実在する店をめぐるというコンセプトでリアリティを誘っているのも大きい。特筆すべきは、仕事をサボってこっそりスイーツを食べるものの、必ずノルマをこなすという甘太朗の矜持。もはや隠す必要はなさそうだが、背徳感をも楽しむようなスタンスが、後味の良さにつながっている。言わば、「わかりやすさ、局所的な深さ、人間の欲望」という3項目を兼ね備えている王道の深夜ドラマなのだ。
くどいようだが、私は甘党ではない……が、書いているだけで、無性にあんこが食べたくなるし、口の中に唾液を感じる。もしかしたら、VRな味わいのあるドラマなのかもしれない。さすがは「たれ」の番組まで作ってしまうテレビ東京の作品と言うべきか。食べ物ドラマは、まだ一周していないことに気づかされた。
※『GALAC(ぎゃらく) 9月号』より
木村隆志(きむら・たかし)/過剰な演出も、上司役の皆川猿時も、夏夜には暑苦しいはずなのに、結局笑わされてしまう。だから、「コンビニにスイーツを買いに行くのか」迷う人は多そうだ