10年前の一般の日本国民にはこうした議論が受け入れられる余地はなく、政治家も持論を声高に述べることは控えた。だが、今や政治家どころか一般人が右翼政治家と同じことを言い始めている。こうなると、「敵が攻めて来るぞ!」「このままではやられてしまう!」「ならば、先にやるしかない」と自民党が声高に唱え始めた時、以前なら「戦争なんてとんでもない!」という反対世論が強まる可能性が高かったが、今は、「そうだ、そうだ!頑張れ、自衛隊!」の大合唱になる怖れすらある。戦争を止める最後の砦である国民世論が全く歯止めにならない状況が生まれつつあるのだ。
だからこそ、米中の外交の専門家が、日本世論の「激変」を共に認識した。だが、肝心の日本国民はこれに気付いていないようだ。いざ開戦となってからでは遅い。日本国民は、米中の指摘を機に、自らの「変節」を早く改めるべきだ。
古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。自身が企画プロデューサーを務めた映画『妖怪の孫』の原案『分断と凋落の日本』(講談社)が発売中
※週刊朝日 2023年5月19日号