本来プロの料理人向けだった書籍が、加筆修正のうえ文庫化されたもの。めずらしさから手にとったのだが、その内容の豊かさと面白さに驚いた。科学や社会思想と関連づけた料理の分析(進歩主義の補完としての田舎風料理の称揚!など)に、食の研究家や天才料理人の詳細な列伝(紀元前4世紀!の美食家アルケストラトスなど)、巻末には「料理名にまつわる由来小事典」なるものまであり、「クロワッサン」や「メレンゲ」などの由来を知ることもできるのだ。

 21世紀の前衛「すぎる」料理に批判的な著者の語りからは、「食べる」という人間の営みを大切にする姿勢が読みとれる。一方この批判に対して訳者による補足説明もあり、料理の最先端を客観的に学ぶことができる。やや専門的な用語もあるが、拾い読みでも楽しめる良書だ。

週刊朝日  2017年6月9日号