AERA 2023年5月1ー8日号より
AERA 2023年5月1ー8日号より

 なんてことのない短い話に街の匂いや一瞬のきらめきが詰まっていて、情景が目に浮かぶ。そこから宮本さんの本を読むようになりました。

 本も映画も、自分の悩みや願望を映す鏡のようなものだと思っています。グレタ・ガーウィグ監督の映画「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」は、若草物語という昔からある作品を監督の視点で語り直して、ジョーという一人の女性の人生を描いています。結婚せずに生きていくとか、男性社会のなかで女性の作家として力を発揮していくとか、そんなジョーの生き方は現代にも通ずるものがある。監督自身の生き様も重なって、格好良いなと憧れます。

 人間関係を軽やかにしてくれるのは、エリック・ロメール監督の「海辺のポーリーヌ」です。どうしようもない痴話喧嘩が繰り広げられるのですが、喫茶店で隣の席の会話を聞いているような感覚になるんです。そのなかでも、大人と子どものはざまに立つ15歳のポーリーヌが魅力的。「自分が世界の中心のつもり?」と言い放つポーリーヌを、自分のなかに持っておきたいなって思うんです。

 東海テレビが作った「人生フルーツ」も毎年見返しています。雑木林のなかで自然の循環を作りながら暮らしている老夫婦のドキュメンタリーです。すごく寄り添い合っている二人だけど、いつか最期のときがくる。その瞬間の言葉にならない儚さや、残されたほうの日常のなかに生きている愛情とか。これが人生なんだなって見るたびに泣いちゃうんです。

(構成/編集部・福井しほ)

■大事なものを見失わないために

○矛盾する「私」という存在を俯瞰する

『かけがえのない、大したことのない私』/田中美津/インパクト出版会

『そういうふうにできている』/さくらももこ/新潮文庫

『星々の悲しみ』/宮本輝/文春文庫

映画

○人間関係を軽やかにしてくれる

「海辺のポーリーヌ」/エリック・ロメール(1983年)/DVD発売中/発売元:シネマクガフィン/販売元:紀伊國屋書店/定価5280円(税込み)

「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」/グレタ・ガーウィグ(2019年)

「人生フルーツ」/伏原健之(2016年)

AERA 2023年5月1-8日合併号