●コンピュータにとって将棋が難しい理由
ではなぜコンピュータにとっては、チェスよりも将棋のほうが、人間に勝つのが難しいのでしょうか。
その理由は、コンピュータにとって、チェスよりも将棋の局面のほうが「何をどのように計算すればいいのか」がわからないからです。言い方を変えれば、コンピュータにとって、将棋のほうがチェスよりも扱いにくいということです。
考えてみてください、計算すればいいだけの問題だったら、コンピュータは人間には決して負けません。そもそも将棋の何を、どのように計算すればいいのかわからないから、コンピュータは人間に勝てなかったのです。
普通に考えたら、将棋を指すことが計算問題になったりしませんよね。そこを頑張って、将棋という問題を計算問題に落としこむことがプログラマの仕事であり、私が今までやってきたことなのです。
いままで計算不可能だった問題を計算可能にするのが、人工知能における課題なのだとも言えます。コンピュータと人間がその性能を争っている分野というのは、つい最近まで計算不可能と思われていた問題が計算可能な問題になっている途中なのです。
コンピュータにとって計算可能な問題は簡単で、そうでない問題は難しいことは、将棋の例からもよくわかります。
通常、コンピュータは終盤のほうが得意です。なぜなら、王様を攻めるという目的がある程度しっかりしているからです。相手の守りの駒を取っていき、王様を目指していけばいいのです。将棋の終盤は、コンピュータにとって計算しやすい問題と言えます。
一方、将棋の序盤はコンピュータにとって計算困難な問題です。駒のわずかな配置の違いで局面の良し悪しが大きく変化します。これらの微小な違いによる良し悪しを、人間のプログラマが書ききることは困難です。当時のプログラマとしては、誰よりも将棋を理解していたつもりの私も、その試みに失敗しました。
●コンピュータにとっての将棋とチェスの本質的な違い
話をまとめます。コンピュータにとって、チェスは将棋に比べて、人間に勝ちやすいゲームでした。それは、コンピュータがチェスを完全に解析できるからではなく、局面の良し悪しを測る基準がチェスは将棋よりも明確で、コンピュータに計算しやすいものだったからなのです。
なぜでしょうか。ここで少しチェスのゲーム性を紹介していきましょう。