もちろん、躊躇(ちゅうちょ)する気持ちもありました。しかし、このとき私はある発見をしました。「持たざる者」であることが、自分にとっての最大の強みであることに気づいたのです。


 「持たざる者」であるがゆえに、たとえ失敗したとしても失うものが何もない。だからこそ、ハイリスクが取れる。これは、「持たざる者」の最大の武器だと気づいたのです。

●「ハイリスク」と「無謀」の違い

 ただし、私は、決して無謀なリスクを取ったわけではありません。
 まず第一に、当時、私は24歳と若かった。しかも、薬科大学で薬剤師の資格を取っていましたから、マレーシアで大失敗をしたとしても、日本でやり直しができます。事業家の夢は捨てなければならないかもしれませんが、家族を養っていくことはできる。いや、どんな仕事をしてでも、体力さえあればやっていける。「若さ」と「体力」を資本にすればハイリスクを許容(きょよう)できる、と考えたわけです。

 それに、「戦う場所」を決めるうえで、私はかなりの研究をしました。
「青年の船」に乗って、東南アジア各国を訪問するなかで、冷静に「場所」を見極めたのです。当時の東南アジア各国は、どこも“出来上がった国”ではありませんでしたから、その意味では、どの国であってもチャンスはあった。しかし、私は、比較検討したうえでマレーシアがベストであると判断したのです。

 なぜか?

 インフラがどこよりも整っていたからです。マレーシアには、イギリス植民地時代に築き上げられたインフラが無傷のまま残されていました。植民地政策には多くの問題がありますが、イギリスの植民地政策には評価すべき点もあります。単に搾取(さくしゅ)するのではなく、その土地で富を生み出すためのインフラ整備に多額の投資をしたことです。

 たとえば道路。イギリス植民地政府は、マレーシアに広大なゴム園をつくりましたが、その輸送ルートとして立派な道路網を整備しました。それは、当時の日本よりもはるかに効率的で美しい道路網だったのです。

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