印刷、校閲、装幀──本作りの世界を支える人々の取材記。各々が仕事に行き着いた経緯や、現在の思いを丁寧に掬い取る。
職人気質のイメージとは裏腹に人との「関わり」の重要性を説く語り手が多い。新潮社を定年まで勤め上げ、司馬遼太郎や塩野七生など大作家たちの作品を担当したある校閲者は、校閲で何より大事なのは「著者の立場に立つこと」であり、良い校閲者になりたければ「酒を飲みに行け」と力説。また、『海峡を越えたホームラン』などの装幀を担当したブックデザイナーは、デザインとは一種の社会運動で、編集者や著者と議論を重ねて作品を生み出すことが「紙の本」が生き残る道だと語る。目立たない仕事であっても、人々の語りには「本」がもつ存在価値へと思考をいざなう熱量が宿っている。
※週刊朝日 2017年4月7日号