NHKスペシャル取材班による本書『老衰死 大切な身内の穏やかな最期のために』は、テレビで放送されるや再放送のリクエストが数多く寄せられたというNHKスペシャル「老衰死 穏やかな最期を迎えるには」を書籍化したもので、いわばタブーとされる「死」を真っ向から取り上げたものです。



 番組誕生のきっかけは、超高齢化社会に内在する問題が頻繁に報じられ、悲惨な老後と、辛く苦しい孤独な死が誰の身にも降ってくると刷り込まれるばかりの日本で、人生の終盤を前向きに考えられるような現場を取材したいというディレクターの番組提案書だったとのこと。番組プロデューサーは、人には"穏やかに最期を迎える力"があるのか――を知りたいという気持ちで制作に当たったと、本書で語っています。



 放送された番組と同様に、本書も世田谷区立特別養護老人ホーム「芦花ホーム」を舞台にした「ドキュメントパート」と、最新の研究から老衰死の謎を解き明かしていく「サイエンスパート」が2本軸となっており、ナレーションを担当した女優の樹木希林さんが収録後に述べた感想とメッセージ、さらに放送後に視聴者から寄せられた反響の一部も紹介されています。



 死のあり方について、日本国内にとどまらず、福祉国家として知られるスウェーデンなど欧米の取り組みも伝えています。スウェーデンでは、この20年ほどで医療のあり方が大きく変化してきたそうです。しかし、国民に"死をタブー視しない"感覚が根付いてきたというものの、最近は多くの移民が移り住むようになったことで、より慎重な対応が求められるようになりつつあるとしています。



 また、患者の生活の質という意味で使われる「QOL=クオリティ・オブ・ライフ」という言葉がある一方、いま注目されはじめているという「QOD=クオリティ・オブ・デス(死の質)」について、国別に評価したランキングも掲載されています。番組放送時は2010年時点のランキング(世界40ヵ国を対象)に基づき、日本は総合評価で40ヵ国中23位でした。本書では2015年版の発表で日本が14位と順位を上げたことにも触れ、このランキングで連続世界第1位となっているイギリスの「人生最終段階のケアシステム」についても掘り下げていきます。



 いま欧米各国は、医療によって死に抗うのではなく、死を受け入れていくという方向へ進んでいるそうです。それぞれの国における価値観の相違はあるにしろ、本書は、自らや家族の最期の迎え方について目を背けずに考えることの大切さを教えてくれる気がします。