江戸時代の報恩講で出された油揚げを再現した。油揚げがお椀からはみ出している(写真・佐々木京美さん提供)
江戸時代の報恩講で出された油揚げを再現した。油揚げがお椀からはみ出している(写真・佐々木京美さん提供)
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 和食の名脇役である油揚げが、メイン料理として愛されている地域があるのをご存知だろうか。消費額は全国平均の2倍で、62年連続の1位と他を寄せ付けない。しかも、その地域の油揚げは、全国のスーパーで売られている油揚げとは別物。座布団みたいな油揚げだった。

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 総務省の家計調査(2022~24年平均)の「油揚げ・がんもどき」で、1世帯(2人以上)当たりの年間支出額で断トツの1位は福井県の5722円だ。都道府県庁所在地と政令指定都市の全国平均2941円のほぼ2倍で、2位の富山市(4312円)を大きく引き離した。しかも62年連続首位。圧倒的な記録を誇る。

 ちなみに、ワーストは那覇市の1617円だった。

「冷蔵庫に油揚げがないと、安心できません」

 こう話すのは、福井県在住の郷土料理研究家、佐々木京美さん(65)だ。

「これさえあれば、何とかなると思えます。冷蔵庫には必ず油揚げがある家庭が福井では多いのでは」

 みそ汁のいち具材では終わらない。冷蔵庫の野菜と一緒に煮れば、メインのごちそうになる。油揚げを使った料理に、特別な名前はなく、家庭では「煮たの」と呼ばれる。名前がいらないほど、当たり前の料理だ。

 その熱量はイベントにまで昇華した。2019年からは油揚げが一堂に会するイベント「あげフェス」が開かれるようになった。ロックでもビールでもない、油揚げのフェスだ。

 佐々木さんは衝撃的なことを教えてくれた。

「他の地域では、これを油揚げとは言わないと思います」

 福井の油揚げは分厚い。正方形の手のひら大で、厚さは6センチくらい。「ふかふかの座布団」のようだ。

 全国的に油揚げというと、薄い長方形だ。だが、福井のものは切ると、中身は分厚い豆腐。「厚揚げ」に近いが、全国の厚揚げとも一味違う。

「お豆腐の中に気泡があるのです。煮たお出汁がしみこみやすい構造になっています。煮込むと、油揚げの中の柔らかい部分が出汁を吸うんです」

 関西の出汁文化が背景にある。煮込んだ後の断面は、一目瞭然。ホロホロと崩れそうで、中まで出汁がしみて、豆腐は茶色く染まる。全国で見る厚揚げでは、なかなかここまで茶色くならない。出汁をたっぷり吸いこんだ分厚い油揚げは格別だ。油抜きは絶対にしない。

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