新たに描き下ろされたものだという自画像をボックスの表面に配した『アナザー・セルフ・ポートレイト』(2013年に発表されたブートレッグ・シリーズ第10弾)は、その70年発表の2作品をテーマにしたもの。デモ・テイク、別テイクなど、完全な未発表曲など、よほどのマニアでないかぎり聴くことができなかった35トラックが公式な形で収められている。

 この時期、重要な存在としてディランの創作活動を支えたのは、《ライク・ア・ローリング・ストーン》の録音やニューポート・フォーク・フェスティヴァルのライヴにも参加したアル・クーパーと、マルチ弦楽器奏者デイヴィッド・ブロムバーグ。おそらく少なからずウッドストック時代を意識したと思われるラフなセッションから発展し、あらたな要素を加えたり、あるいは、そこで手にした曲を再録音したりといった作業を通じて2つの作品が生み出されていった過程がよくわかるようだ。

 オーケストラが加えられた《サイン・オン・ザ・ウィンドウ》、ホーン・セクションがオーヴァーダビングされた《ニュー・モーニング》、ピアノの弾き語りで歌われる《ホエン・アイ・ペイント・マイ・マスターピース》、69年ワイト島でのザ・バンドとのライヴからの《ハイウェイ61リヴィジテッド》、正体不明のバイオリン奏者と録音した《イフ・ノット・フォー・ユー》など、どの曲もあれこれと納得しながら、楽しめた。その《イフ・ノット・フォー・ユー》をビートルズ解散後に発表した『オール・シングズ・マスト・パス』に収めたジョージ・ハリスンも未発表曲の《ワーキング・オン・ア・グルー》などで美しいギターを提供している。かつてWHAT IS THIS SHIT?と書いたグリール・マーカスのライナーノーツも、それ自体が力作だ。

 僕自身は、『セルフ・ポートレイト』が発表されたころは、まったくなにもわからず、もともとはフランスのポップ・ソングだったという《レット・イット・ビー・ミー》などを気持ちよく聴いていた程度。だからというわけではないが、「アナザー」の意味をあまり深く受け止めてはいない。あれも自画像、これも自画像。そういうことだろう。[次回2/22(水)更新予定]

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