ドイツのショルツ首相
ドイツのショルツ首相

 原発は、利用するものには大きな利益を与えるが、事故が起きると利用していない地域の人々にも取り返しのつかない被害を与える。自己の利益のために他者を犠牲にするのは、倫理的に悪である。また原発の出す核のごみはドイツ国内では処理の見通しがなく将来世代にまで負担を先送りすることになる。これも利己的な行為で倫理的に許されない。そうであれば、止めるというのが正しい選択だ。その道は険しいが、国を挙げて取り組めば、イノベーションが進み実現できる可能性はある。ならば、その道を突き進むべし。これが脱原発の根本的な哲学である。

 だから、ウクライナ危機でも、原発を復活せよとか新設せよという議論は全く出ない。せいぜい1年か2年稼働延長するかどうかという議論が出るだけなのだ。

 日本には政治にも国民にもそうした哲学がなく、地震に弱い原発を何となく動かし、核のごみが処分できないことを知りながら漫然と稼働を許す。

 原発依存のおかげで、再生可能エネルギーやEV(電気自動車)の分野で、世界のイノベーション競争に敗れ、G7では、温暖化対策推進の足を引っ張るお荷物になった。

 脱原発の「哲学」を示せる政治家がいつ出てくるのか。それには我々国民が明確な哲学を持たなければならないのだが。



週刊朝日  2023年5月5-12合併号

暮らしとモノ班 for promotion
2024年この本が読みたい!「本屋大賞」「芥川賞」「直木賞」