古賀茂明氏
古賀茂明氏
この記事の写真をすべて見る

 4月15日、ドイツが脱原発を完了した。原子力発電所3基の稼働を停止して電力網から切り離し、原発60年の歴史に終止符を打ったのだが、実は、これは驚くべきことだ。

【写真】ドイツのショルツ首相はこちら

 何故なら、まず、EUのカーボンニュートラルの目標は2050年だが、ドイツは、21年にこれを5年前倒しして45年という非常に高い目標を掲げている。だが、22年のウクライナ危機でロシア産天然ガス供給が急減。エネルギー危機に直面した。緊急避難的に石炭火力の稼働を増やし、直近ではその比率が3割程度まで高まった。それでもなお、メルケル政権が定めた38年までの脱石炭目標を30年に前倒ししたショルツ政権はこれを維持している。

 これらを前提にすると、脱炭素の目標を達成するには原発の活用しかなさそうだ。現に、昨年10月には、22年末という脱原発目標を棚上げし、23年4月15日まで延長した。23年から24年の冬場も電力需給ひっ迫に備えて原発の稼働をさらに延長せよという世論調査の結果も出始めた。

 しかし、ドイツ政府は、4月15日に脱原発を完了させた。そして、原発や石炭火力を代替する電源として再生可能エネルギーの比率を30年に65%まで引き上げる目標に向けて走り出した。

 一方、11年の東京電力福島第一原発の事故後、もう原発はいらないと強く思った私たち日本人。これを反映して、日本政府は、「原発依存度を可能な限り引き下げる」として来た。しかし、電力が足りない、料金が上がると脅されると少しなら仕方ないと原発再稼働を認めた。そして、今や福島のことなどなかったかのように、稼働期間の延長や原発新設までを含む原発完全復活路線に大転換しようとしている。

 日独の間にある違いは何なのか。

 一言で言えば、「哲学」である。ドイツは11年に22年末の脱原発を決めた時、「倫理委員会」を開催した。そこでの結論を簡単に言えば、「原発は倫理的に許されない」という考え方だ。

次のページ
脱原発の根本的な哲学とは