
2002年、「ワダツミの木」で鮮烈なデビューを果たしたのち、戦後60年に広島・原爆ドーム前で「死んだ女の子」の歌唱と配信リリース、戦後70年には平和をテーマにしたカバーアルバム「平和元年」のリリースと、20年にわたり平和への思いを歌に託してきた歌手・元ちとせ。戦後80年を迎える今夏、配信シングル「イムジン河」をリリースした。戦後30年以上経って生まれた彼女は、どのようにして平和への思いを強く持つようになっていったのか──。(全2回の1回目/後編に続く)
【写真】炎にのみ込まれていく母子…「原爆の図」を見る元ちとせさん
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──太平洋戦争の終戦から80年を迎える夏、元ちとせさんは平和をテーマにした曲「イムジン河」を8月8日にリリースされました。
元ちとせ(以下、元):はい、平和への思いを歌うことは、私にとってライフワークになっています。
──このインタビューを行っているのは、埼玉県東松山市にある「原爆の図 丸木美術館」です。画家の丸木位里(いり)・丸木俊夫妻は、原爆投下直後の広島に駆けつけて救援活動を行いました。のちに共同で描いた全15部におよぶ連作「原爆の図」が展示されています(原爆の図・第15部《ながさき》は長崎原爆資料館が所蔵)。
元:今日は原爆の図・第2部《火》(1950年発表)という絵の前でお話ししています。差し伸べられた手を振り払い炎にのみ込まれていく母子の絵を見て、心が苦しくなりました。この母親は子どもをたった一人で残すよりも、ともに死ぬ選択をします。もし自分だったらどうしたか、同じ母親として考えずにはいられませんでした。
北朝鮮で生まれた「イムジン河」
──韓国と北朝鮮の軍事境界線の近くを流れる河を歌った「イムジン河」は、1968年に加藤和彦さん、北山修さん、はしだのりひこさんの、ザ・フォーク・クルセダーズがリリースした曲でした。
元:歌詞には美しい風景が描かれていて、メロディーも穏やかで優しい曲ですよね。アルバム「平和元年」でもいろいろなタイプの曲にのせて平和を歌ってきましたが、勢いのある曲・メッセージ性の強い曲からこうした穏やかな曲まで幅広く届けていけたらと思って、今回はこの曲を選びました。