「1人ポッサム」を売り物に店舗数を増やしているチェーン店の店内。若い世代が多いという=2022年8月、ソウル、朝日新聞論説委員・稲田清英撮影
「1人ポッサム」を売り物に店舗数を増やしているチェーン店の店内。若い世代が多いという=2022年8月、ソウル、朝日新聞論説委員・稲田清英撮影
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 日本以上の速度で少子高齢化が進む韓国。「異常な受験戦争」「貧困に陥る高齢者」「増加する不法滞在者」など、さまざまな問題に直面しています。これは日本にとって対岸の火事ではありません。朝日新聞取材班による『縮む韓国 苦悩のゆくえ 超少子高齢化、移民、一極集中』から一部を抜粋して紹介します。

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 記者(稲田清英)は2008年から11年までソウル特派員を務め、また22年から24年までソウルで特派員として暮らした。2度目の勤務の際は11年ぶりということで、何度か聞かれたのがこの質問だ。

「久々の韓国はどうですか? だいぶ変わりましたか?」

 実は、昼に夜に街を歩きながら、初回の勤務時やその前の留学時と比較して、印象に残ったことがあった。「ひとりで食事をする人」の姿を、以前よりもよく見かけるようになったということだ。

 そんな話をすると、「確かにそうですね」とうなずく人が多かった。

「友達がいない人」のイメージだった「ひとりご飯」

 なぜ、印象的だったのか。実は韓国では従来、「ひとりご飯」がどこか否定的なイメージで見られがちだったからだ。

 韓国の人々にとって、食事とはわいわい、みんなで共にする、とても大切なもの。「食事はされましたか」があいさつの言葉となり、一緒に食事をすることで人と人との距離もぐっと近づくことになる。

 だからこそ一方で、ひとりで食事をする人には良いとは言えないイメージがついてまわった。「友達がいない人」「周りに溶け込めない人」……。そんな状況が最近、少しずつ過去のものになりつつあるようだ。

ひとり対応を売りにする「ポッサム」店が登場

 記者は22年夏、「おひとりさま対応」を売りにする店をソウル南部に訪ねた。韓国で親しまれる「ポッサム」という料理で、ゆでた豚肉をキムチや他の野菜などと食べるものだ。通常は2人分以上からの料理だが、ソウル大にも近いその店舗の店先には、こんな表示があった。

「1人ポッサム その感動をめざして」

 店内にはカウンター席が並んでいる。お昼時、学生や会社員らが訪れ、定番の「1人ポッサム」を注文していた。メニューには「1人豚足」や焼き肉の「1人サムギョプサル&モクサル」などもあり、徹底的に「ひとり」を売りにしている。

 ひとりで訪れた客は、スマホの画面に目をやるなどしながら黙々と食事を終え、さっと出て行く。

 就職活動中という男性(25)に食事後、話を聞いてみた。予備校の行き帰りに時々訪れるそうだ。

「ひとりでよく食事をしますか?」との質問に、男性は笑顔でうなずいた。友達がいない人、などと思われないように、ひとりでの食事は避ける友人らが以前は少なくなかったが、最近はそういうイメージは薄れたと感じているそうだ。

「他の人の意見に縛られず、食べたいものを食べて、食事に集中できることが利点かな。友達や家族との食事もいいけど、自分だけで食べる時間も悪くないですよね」

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