別の会社員の男性(27)は「以前は恥ずかしいイメージもあったけど、最近はひとりで食べられる店が増えてきましたよね」とうれしそうだった。「話題が途切れないように、などと気を使わずに食事ができるのはありがたい」。

新たなスタイル「ホンパプ」の浸透

「ひとりご飯」を、韓国では「ホンパプ」という。「ホン」は「ひとりで」を意味する「ホンジャ」からで、「パプ」はご飯だ。10年代半ばごろから、「新たなスタイル」を指して普及した言葉で、「ひとりご飯」が急速に市民権を得たことを物語ってもいる。

 最近は韓国で日本のドラマ孤独のグルメ』が人気を集めている。これも「ひとりご飯」が定着してきたことの表れだろう。

「1人ポッサム」店の運営会社代表の朴曜夏(パク・ヨハ)さん(33)にも話を聞いた。大学時代から起業を志したそうで、「5年以内に100店規模のチェーンに育てられれば成功だ」と考え、アイデアを練った結果、急速に単身世帯が増えている状況を踏まえ、浮かんだのが「1人ポッサム」だったという。

 1号店を出したのは14年。ソウル南部の単身世帯が多い地域を選んだら、20代など若い世代を中心に常連客がついた。当初はソウルの大学近くに出店を拡大し、各地に約150店まで増えていた。

進む「個人化」 超少子化の一断面

「1人ピザの始まり」をうたうチェーン店の「ゴーピザ」も各地に店舗を増やしている。ひとりで気楽に食事が取れるので、実は、記者も何度か行ったことがある。ひとり用座席を設けたり、ひとり用メニューを工夫したり、韓国で「ひとり対応」の飲食店は珍しくなくなった。日本でも「1人焼き肉」「1人もつ鍋」などの店があるが、いまやお隣の韓国でも似た動きが広がっているのはなんとも興味深いところだ。

「ホンパプ」が一般化したのはなぜか。韓国社会の構造的な変化がその背景の一つにありそうだ。

 1970年代初めごろまで出生率が4を超えた韓国だが、2000年代以降は少子化が深刻になり、いまや出生率も1を割った。少子化は世界有数のペースで進んでいて、核家族化が進み、単身世帯が3割以上を占めるようにもなっている。

「1人ポッサム」の朴さんはこんな話をしていた。「親の世代は大家族で『みんなで一緒に』という文化でしたが、我々の世代は単身世帯が増えて変わりました。今や1人で何かをすることは変じゃない。『個人化』が非常に進んでいます」

 これも、韓国社会の「超少子化」の一断面なのだろう。

(朝日新聞取材班)

縮む韓国 苦悩のゆくえ 超少子高齢化、移民、一極集中 (朝日新書)
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