シンガポールの公営住宅で暮らす青山さんの知り合いのタクシー運転手も、自宅とは別に不動産を取得し、外国人に貸しているという。外国人は一部の富裕層以外は民間の賃貸住宅で暮らしているため、外国人が増えるほど家賃も上がり、家主の自国民が潤う仕組みになっている。
とはいえ、シンガポールの人口は約604万人(24年)。東京23区(約973万人)よりも少ない規模だからこそ可能な住宅政策であることは否めず、あくまで一例と考える必要もありそうだ。そう指摘すると、青山さんはこう主張した。
「一度にシンガポールの水準を目指す必要はありません。例えば、観光施設での二重価格の導入など、できることから徐々に始めればよいと思います。次のステップとして公営住宅の入居条件を緩和し、日本人の若い世代も入居できるようにしていくなど柔軟に発想を変えていくことが大切です」
そしてこう続けた。
「東京などの都市圏で普通に働いている現役世代の日本人が、(高騰によって)不動産を購入できない日本の状況はあまりにいびつです。こうしたことも排外的世論が広がりやすい素地になっていると思います。日本政府も知恵を出し、新しい仕組みを作るべきだし、作るタイミングに来ていると思います」
観光施設での二重価格設定に際しても、大事なのは外国人から割高な料金で徴収した利益をどう活用するかだという。例えば、訪日客のオーバーツーリズムが問題になっている地域では、自然環境保護や駐車場の整備に充てる。国が徴収した分は低年金受給者への補助に回すのもいい。こうした施策とアナウンスが浸透すれば、外国人が来ることによって被害や不利益を受けているというマイナス感情の緩和や払拭にもつなげられる、と青山さんは強調する。
「シンガポールのように国民の多くが外国人の観光を歓迎する姿勢を持つようになるには、観光施設のある地元だけでなく、外国人が来ることで国全体が潤っているという実感を誰もが抱くようなポジティブなサイクルを新たに作ることが重要です」
(AERA編集部・渡辺豪)
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