道外からもクレームの嵐

 さらに「北海道民から電話が来るというよりは、むしろ道外の方からじゃんじゃん電話がきている」と実情を説明し、ハンターたちは命の危険と向き合いながら駆除に当たっていることを強く訴えた。

 クマの駆除を巡る、自治体への抗議やクレームの嵐は、近年、秋田県などの自治体でもあった。長時間、電話を切らせなかったり、「お前が死ね!」などと怒鳴りつける脅しまがいの電話もあった。その土地の実情を理解していない県外からの電話が目立ち、クマが生息していない九州の人からの抗議もあった。

 本来するはずだった業務に支障が出たり、対応に当たる職員が疲弊していることが各地で伝えられた。 それでも、また同じことが繰り返される。道庁への抗議は今も続いている。

役所としてカスハラ対応すべき

 企業の危機管理に詳しく、カスハラ対応の研修などを行なっている東北大特任教授の増沢隆太さんは、「クマ駆除の問題に限らず、役所の体制がクレーマー社会に対応できていないということです。現場で解決できる問題ではないのに、何も手が打たれていません。トップが無策すぎると思います」と対応の遅れを強く指摘する。

 道庁の担当者が「ご意見を受け付けることは私たちの重要な役割」と話したように、役所勤めの公務員は抗議やカスハラに対して、ある意味で立場が弱い。

 増沢さんは、「意見とクレームは違います。ただ、クレーマーはゆがんだ『正義感』で抗議をしてきますので、自分がクレーマーだという自覚はありません。だからこそ、クレームやカスハラ対策への方針を決めて毅然と対応する必要があります」と話す。

首都高は「切電」で成果

 首都高速道路は利用客から電話でカスハラに該当する行為を受けた場合、理由を伝えたうえで電話を切ってもいいとした「切電(きりでん)マニュアル」を導入し、成果を上げている。

 同様に、例えば「10分を超える」「大声を一度でもあげる」「名前を名乗れと要求する」などの場合は電話を切っていいルールを作るべきだ、と増沢さんは訴える。そして、そのルールを組織として宣言すればいい。

「このまま放置すれば、公務員を希望する若者がどんどん減っていくでしょう。ボディブローのようにダメージが積み重なり、10年後、20年後に大きな影響が出ると思います。社会の問題としてとらえ、まずはクレーム対応に当たっている現場の声を聞いて、組織としての体制づくりをしていくことが求められます」(増沢さん)

 業務に支障が出ているということは、本来の市民への行政サービスが滞っているということでもある。対策作りは急務だ。

(ライター・國府田英之)

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