「雷の呼吸」が不完全なままに継承された“必然”
おそらく桑島は、後に残される「2人の弟子」のことを死の間際にもずっと思い続けていたはずだ。彼らの「兄弟弟子対決」は避けられない。桑島が大切にしてきた「6つの雷の呼吸」で、彼らが殺し合うことも覚悟していただろう。
しかし、善逸は“じいちゃん”を絶望させたくはなかった。善逸は途中まで、「壱ノ型 霹靂一閃」で戦っていたのだが、最後に出した技は「漆ノ型 火雷神」だった。
これは俺の型だよ
俺が考えた 俺だけの技
(我妻善逸/17巻・第145話「幸せの箱」)
獪岳と善逸、彼らの戦いの決着は、「漆ノ型」で閉じられる。つまり、桑島が弟子たちに継承した「雷の呼吸」は、どちらの命も奪っていないのだ。この悲しい決着は覆ることはないため、桑島の辛苦、そして後悔が拭い去られることはない。だが、善逸の“優しさ”が生んだ新しい技によって、桑島の技が「弟子の死」に染められることはなかった。
「雷一門」のエピソードは悲劇的ではあるのだが、その結末はわずかにでも桑島の心を救ったのではないだろうか。桑島が善逸にかけた「お前は儂の誇りじゃ」という言葉は、善逸の優しさとひたむきさに対する言葉だった。
《拙著『鬼滅月想譚』(7月18日発売)では、獪岳と善逸の対戦の意味について、さらに詳述している。》
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