そして、しのぶが思い出したのは、不安気な表情を浮かべる、継子・栗花落カナヲの姿だった。今、この瞬間、鬼を一緒に倒すと誓った姉がそばにいなくとも、しのぶは「蟲柱」として、蝶屋敷の皆の“姉”代わりとして、戦い抜かねばならなかった。
■栗花落カナヲが「花の呼吸」であることの「救い」
しのぶと童磨の戦いが終わりを告げようとしていた時、「師範!!」と声をあげてカナヲが戦闘の場に到着した。まるで、脆い蝶々が片羽を落とすように、しのぶの身体から力が失われた。これまでに発したことのないような絶叫がカナヲの口からもれ出す。
この無限城の戦いが始まる直前、しのぶが単独戦闘を想定した作戦をカナヲに説明すると、カナヲはめずらしくそれを素直に受け入れようとしなかった。
どうしてですか? 一緒に 戦えばきっと
か 勝て…
(栗花落カナヲ/19巻・第162話「三人の白星」)
しのぶはカナヲの考えを「甘い」と一喝したが、それでもカナヲの思いを受け止めて、寂しそうに優しくほほ笑んだ。
しのぶはカナヲに想いを“繋ぐ”ために戦い抜く。しのぶの目に、強くなったカナヲの「花の呼吸」は映ったのだろうか。彼女の成長を見届けることはできたのか。それは分からない。しかし、「蟲の呼吸」と「花の呼吸」が、この童磨戦においてたしかに揃ったのだ。胡蝶姉妹の想いは確実に繋がれた。
孤独なしのぶは、カナヲ、そして大切にしてきた者たちの想いによって支えられる。悲しみに満ちたしのぶの決意は、あとに残された者たちが引き継がれていく。劇場版「無限城編」では、この後におとずれる、彼女たちの「継承」の結晶にも注目したい。
《新刊『鬼滅月想譚 ――「鬼滅の刃」無限城戦の宿命論』では、「しのぶが童磨にとって“特別な人”になった理由」や、「童磨とカナヲの意外な共通点」についても詳述。上弦の参・猗窩座との戦いにおける「炭治郎・義勇・煉獄」の“想い”についても紐解いている》
