不安気な栗花落カナヲ(公式サイト・劇場版『鬼滅の刃』人物紹介より)https://kimetsu.com/anime/mugenjyohen_movie/character/
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【※ネタバレへの注意】以下の内容には、既刊のコミックスと劇場版のネタバレが含まれます。

【画像】猗窩座より強い?「無限城編」に登場する上弦の鬼はこちら

 新作劇場版「『鬼滅の刃』無限城編 第1章・猗窩座再来」の上弦戦の初戦は、「蟲柱・胡蝶しのぶvs上弦の弐・童磨」から始まる。因縁の敵・童磨を前にして、しのぶは苦戦を強いられる。

 幾度となく見舞われるピンチに、しのぶが思い出したのは、弟子として“妹”として、家族のように育ててきた栗花落カナヲの不安と悲しみに満ちた表情だった。なぜ蟲柱であるしのぶのもとに残った最後の継子は、「花の呼吸」の使い手だったのか。

 新刊「鬼滅月想譚 ――『鬼滅の刃』無限城戦の宿命論」を著した四天王寺大学文学部の植朗子准教授が考察する。

*  *  *

蟲柱・胡蝶しのぶの智略

 胡蝶しのぶは、姉・カナエの遺言を頼りに、自分が最終局面で敵として対峙することになるであろう「上弦の鬼」のことを的確に予想していた。

頭から血をかぶったような鬼だった

にこにこと屈託なく笑う

穏やかに優しく喋る

(胡蝶カナエ/16巻・第141話「仇」)

 上弦の弐・童磨の実際の姿は、カナエが教えてくれたとおりだった。女性を好んで食べる鬼として伝えられており、「異様な執着があり意地汚ならしい」とまで言われている。そして、この男が身体能力に優れている「柱」をとくに好むであろうとしのぶは考え、自分が童磨と対決する未来を想定して、綿密な作戦を立てていた。

しのぶの孤独な戦い

 しのぶは鬼殺隊に入隊する前、姉のカナエとともにこんな誓いを立てている。

鬼を倒そう 一体でも多く

二人で

私たちと同じ思いを 他の人にはさせない

(胡蝶カナエ・しのぶ/17巻・第143話「怒り」)

 「二人」……しかし、この無限城の決戦で、しのぶは「独り」で童磨と戦うことになった。明らかに自分より強い鬼と戦うことになる緊張感は凄まじいものだっただろう。それでも彼女は一歩も引かずに、童磨と渡り合う。

しのぶの「涙」

 童磨の攻撃で大きく傷つけられたしのぶは、「毒じゃなくて頸を斬れたら良かったのにね」という童磨の心ない言葉でさらに絶望した。鬼狩りの剣士は、並外れた体力と身体能力が必要になる。しかし、しのぶはわずか151センチ、37キロしかなかった。童磨がアハハと笑いながら発した、「あー無理か 君小さいから」(16巻・第142話)という声かけに、しのぶの目には涙がにじんだ。

 そんな時に、死んだはずの姉・カナエの言葉が聞こえてきた。

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