料理研究家のリュウジ氏(撮影/写真映像部・松永卓也)
料理研究家のリュウジ氏(撮影/写真映像部・松永卓也)
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 10代の時に世界一周の旅に出た料理研究家のリュウジ氏。滞在した中国で、衝撃的な食体験をしたという。料理と人生を語りつくした最新刊『孤独の台所』(朝日新聞出版)より、一部を抜粋してお届けする。

【写真多数】リュウジさんの孤独な横顔

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 世界一周旅行で別格に食事がうまかった国は、ベトナムと中国です。この2つに滞在していたときは何を食べてもうまかった。

 その理由はあとからわかったのですが、両方ともアジア圏にあるからか、やはりうま味を大切にする文化があるんです。

 より和食に近いのはベトナム料理です。代表的な麺料理のフォーは、米粉からできるもちっとした麺に、あっさりだけどうま味もたっぷりのスープをかける。

 味の決め手になるのは魚と塩から作る魚醤(ぎょしょう)「ニョクマム」です。単体でなめると癖が強く感じるけど、チキンスープに溶かすと立派なスープになってしまう、うま味の強い調味料です。凝った出汁を取らなくても、調味料がちゃんとカバーしてくれる。

 そこにレモンやライムのような柑橘類、パクチーのようなハーブ類で香りを足して食べるのだからまずいわけがない。ラーメンほど塩分は濃くないし脂っ気も少ないのに、うま味と香りが効いているせいで朝、昼、晩といつ食べても満足できます。

 ベトナムはどこで何を食べてもうまかった。その理由を探っていけば、やっぱりニョクマムを筆頭にうま味を大切にしているベトナムの食文化に辿り着きます。

プロを超える「おばちゃんの一皿」

 中国で衝撃を受けたのは、ホームステイ先のおばちゃんが作ってくれた麻婆豆腐です。

 その麻婆豆腐は、今まで食べたなかで一番うまい麻婆豆腐。世界中のどんなプロの料理より、忘れられない味です。

 今までいろんな麻婆豆腐を食べ歩いてきたけど、どんな名店の味よりもおばちゃんが作ってくれた一皿が一番うまかった。

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