
いまだに追い求めてしまう
俺の麻婆豆腐は、どうにかその味に近づけたいと思って作った、世界で2番目にうまいレシピです。日本の名店には、俺のと同じくらいうまい麻婆豆腐もありますが、おばちゃんの麻婆豆腐は、日本中の名店のレベルを超えているんです。
いまだに追い求めてしまう、衝撃的なうまさでした。
どうやって作ったんだと思ってずっと考えているし、あれこれ試しているものの、秘訣がまったくわからない。
味はいわゆる四川風の麻婆豆腐を思い浮かべてもらえればいいのですが、辛さのなかにもしっかりうま味があって、山椒や花椒(ホアジャオ)といった舌が痺れる香辛料はそこまで利いていなかった。香りの補助でちょっと入っているかなくらいで、どちらかというとラー油的な唐辛子の辛さが強いものでした。
キーワードはやっぱり「うま味」
何よりもあの麻婆豆腐は、ものすごく香ばしかったんですよ。あの強烈な香ばしさがありえないほどのうまさの決め手だと思うんですが……何の香ばしさなのかがさっぱりわからない。肉を強火でがっと炒めたような香りだったから、帰国して再現してみたんですが、まったくあの香ばしさが出ない。
いろいろ使いまわしている油なのか、香辛料なのか、良い豆豉(トウチ。大豆を発酵させたもの。中国風の納豆のようなもので料理に使う)を使っているのか、中国醤油が独特の香ばしさを生み出すのか……。
なにか秘密があるはずなのですが、いまだにわからず探求中です。
あの麻婆豆腐も、具材のうま味と調味料のうま味が絡み合って複雑な味わいを作り出していました。うま味の掛け合わせという点では日本と同じだから、それ自体は驚くことではないんですが、おいしい料理にはやっぱり理由があるわけです。
そう考えると、イタリア料理が日本で受け入れられたのは「グルタミン酸を豊富に含むトマトをたくさん使うから」というのが大きな理由でしょう。
キーワードはやっぱり「うま味」だったんです。
(リュウジ・著『孤独の台所』では、うま味を重視する和食の特徴、イタリアンレストラン「サイゼリヤ」のレベルの高さなど、世界一周を経て至った食への考え方について語っている)
