こうした理由であれば、多言語を駆使できる「wagaya Japan」のスタッフが介在することで課題は解決する。
また、外国人との不動産賃貸契約を重ねる過程で、思わぬビジネスチャンスも浮かんだ。例えば日本人だと、風呂とトイレと洗面台が一緒になっている「3点ユニットバス構造」の物件を避ける人も少なくないが、欧米の人たちは本国でよくあるタイプのため抵抗なく入居する人が多いという。日本人が避けがちな「駅近」ではない物件や、1階の部屋も外国人のマッチング率は日本人よりも高い。草薙さんは言う。
「外国人と契約してもトラブルはなく、空室も減らせる、という手応えを感じてもらった管理会社には、次のステップとして自社の多言語対応を促しています。外国人が暮らしやすい選択肢を増やしていくのが、私たちが目指すゴールですから」
「wagaya Japan」は7月から不動産サービスに加え、外国人求職者向けの就職・転職支援などを新たに展開。外国人を雇用したい企業とのマッチングや受け入れ体制のコンサルティングにも乗り出している。
そんなさなかに参院選で浮上した「日本人ファースト」というフレーズ。これまでも日本社会は「日本人ファースト」だったのではないか。草薙さんにそう問うと、「少なくとも住居と住居にかかわる周辺のサービスについてはそうですね」と頷き、こう指摘した。
「外国人が抱える困難や不便さに多くの日本人は関心も気づきもしてこなかった。そのこと自体が『日本人ファースト』なのは否めません」
そしてこう続ける。
「『日本人ファースト』というフレーズにひかれる人の中には、今の自分たちの暮らしに対する不満の原因を外国人と結びつけている人もいるのかもしれません。でも、日本はまだまだ海外と比べて格差が少なく暮らしやすい。ギュッとまとめると、『隣の芝生は青い』ということなのかなと思いますが、結構恵まれてますよ、と個人的には言いたいですね」
高校と大学で計5年間、米国留学した草薙さん。海外経験を通じて「日本愛」が強まったという。
「海外での生活と比べることで、日本の治安の良さや便利さ、食べ物のおいしさといった暮らしやすさを初めて実感できました。日本ってやっぱりいい国だなって」
その上で草薙さんは、「外国人は優遇されている」という批判や、「特定技能外国人に頼らない国づくり」といった主張に疑問を呈する。
「実際に労働人口は年々減っています。それを絶対に外国人で補わないといけないとは思いませんが、一方でそれ以外の手段が何かあるのかなと。その青写真が示されていないのは疑問です。あたかも外国人に侵略されているみたいな言い方も、どうなのかなとは思います」
日本は「おもてなしの国」と強調していたのは、ほんの数年前のこと。なぜこうなったのか。日本で暮らす外国人が増加するなか、そのニーズにも十分対応できていないのに政治が「排外主義」をあおるのは本末転倒だろう。とはいえ、政治家は「世論の空気」を察してさまざまな発言を繰り出している。響いてしまうのはなぜなのか。自問し続ける必要がある。
(AERA編集部 渡辺豪)
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