日本エイジェントが外国人向けサービスを始めたのは、当時専務だった乃万春樹・現社長が2013年に東京事業部を立ち上げて約1年が過ぎた頃、12人のアメリカ人英語教師の部屋探しの依頼を受けたのがきっかけという。英語が話せるアルバイトスタッフを急きょ採用するなどし、何とか全員の住まいを確保したものの予想を超える困難さを肌で感じた。その後、外国人向けサービスを託された草薙さんは実情をこう指摘する。

「国籍も目的も滞在できる期間も一人ひとり違う人たちを、いまだに一括りにして『外国人』として扱う。これって日本人が欧米に行った時に『アジア人』と括られるようなものです」

 日本で暮らす外国人は24年末に370万人を超え、過去最多を更新した。この「ボリューム」に注目が集まる一方、その多様さにはなかなか意識が向かない。今回の参院選でも「行き過ぎた外国人受け入れに反対」「外国人比率の上昇抑制や受け入れ総量規制」といった、外国人を一括りにするような主張が相次いでいる。だが実際には、在留外国人が日本に滞在するために必要な在留資格は30種類を超える。

 一方で、草薙さんはこんな「変化」も指摘する。

「東京や大阪といった大都市圏は地方と比べると、外国人の解像度が高まりつつあります」

 転機はコロナ禍。それまで高い入居率を誇っていた都内の賃貸物件の需要が一気に落ち込んだ。その際、積極的に契約したのが富裕層の親をもつ中国人留学生だった。

「『えっ、学生が一人で住むのにこんなに高い家賃を払えるの』と驚くほどの高級物件も次々に契約していきました。これを機に、都内の管理会社の間では『中国人留学生は筋が良い』というラベリングが一気に浸透しました。それまで一括りにしていた『外国人』の中で、『中国人留学生』がスピンオフした形です」

 とはいえ、地方ではまだまだ外国人の「細分化」は進んでいない。それは外国人の部屋探しのハードルの高さにも反映される。そんななか、リリースから6年を経た「wagaya Japan」の掲載物件は約18万部屋に上る。どうやって、全国各地の「外国人OK物件」を開拓していったのか。

 草薙さんは「外国人お断り」の不動産が多い背景には2つの要因があると指摘する。1つは、外国人入居者を受け入れるとトラブルが多くなる、という情報の浸透。もう1つは、オーナーから賃貸物件の管理を委託されている管理会社が多言語対応できないという実務面での課題だ。この2つ目の理由がネックになっているケースが少なくないという。

「自社で管理する物件をすべて『外国人NG』にしている管理会社もありました。オーナーは『外国人OK』の場合も、何かトラブルがあった時に責任を負えないという管理会社の意向が優先されていました」(同)

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