獪岳が求め続けた「壱=一」

 偉大な師の技すべてを会得できなかったことに、獪岳の不安は次第に高まっていった。元・鳴柱・桑島慈悟郎が極めていた技を使えないということは、明らかに“不足”であり、“劣化”なのだといら立つ。

 自分に足りないものは何なのか。真面目で努力家の獪岳は、自分にできる努力はすべてやったはずだった。しかし、もがいても、もがいても得ることができない「壱ノ型」。なりたかったのは、桑島の「唯“一”人(=ただひとり)」の後継者。足りない「壱=一」を求めて、獪岳はひたすら自分ができる“壱”の欠けた「雷の呼吸」の技を振るいつづけた。

 そんな獪岳のもとに、あの恐ろしい“最強の剣豪の鬼”が姿を見せる。「上弦の“壱”」黒死牟……この“壱”との出会いは、獪岳が希求しつづけていた“欠損”を埋めてくれる鍵になるのだろうか。

 無限城の決戦において、獪岳の“夢”がどのような結末に向かうのか。新作映画「劇場版『鬼滅の刃』無限城編」で、獪岳と善逸との兄弟弟子同士の対決を見守りたい。

《単行本『鬼滅月想譚:「鬼滅の刃」無限城戦の宿命論』(朝日新聞出版)の6章には、獪岳の追い求めてきた「壱」によって、彼の運命がどのように転換していったのかについても詳述している》

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