
さらに、同じ夜の部では片岡仁左衛門(81)の「熊谷陣屋」、八代目菊五郎の「土蜘」が並ぶ。これはかなり重厚な演目なので、私なら劇場で販売している筋書(関西では番付)を買って予習することをオススメする。絶対に手ぶらで臨んではいけません。
納涼歌舞伎はオトク
そして8月には、恒例の納涼歌舞伎がある。会場は毎月、歌舞伎の興行が行われている東銀座の歌舞伎座だ。ふだんの歌舞伎座は昼夜二部制だが、亡くなった十八代目中村勘三郎と、十代目坂東三津五郎が始めた真夏の興行で、毎年、意欲的なラインナップが並ぶ(その昔、エントリー層には勘三郎を勧めておけば間違いがなかった)。
納涼歌舞伎は切符代がオトクなので、初めての人にもお勧めしやすい。8月は1等1万6千円、2等A1万3千円と比較的廉価だ。
映画「国宝」で女方に興味を持った人には、第二部がオススメ。坂東玉三郎が新作「火の鳥」、中村七之助(42)が「日本振袖始」を出す。「火の鳥」は新作なので内容が想像できないが、「日本振袖始」は八岐大蛇(やまたのおろち)の伝説をベースにしたダイナミックな作品で、歌舞伎の大胆な表現が楽しめることを保証します。
また、第三部では野田秀樹が脚本・演出を担当する「野田版 研辰の討たれ」が上演される。これは亡き中村勘三郎に当てて書かれた作品で、2001年の初演時は熱狂をもって迎えられた。
そして今回、主役・辰次を勘三郎の長男・中村勘九郎(43)が初役で演じる。歌舞伎ではこうして芸が受け継がれていくわけで、何十年後かには勘九郎の長男、中村勘太郎(14)が辰次を演じるかもしれない。そのとき、「あのとき、勘太郎はね……」と語るのも歌舞伎の楽しみのひとつ。見続けることで浮かび上がるものがあり、それが歌舞伎の醍醐味なのであります。
※口上の席:開演前や幕間に、役者が舞台上から観客に向けて挨拶をする。襲名披露など特別な公演では「口上」という一幕が設けられることもある
(ジャーナリスト・生島淳)

※AERA 2025年7月21日号より抜粋
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