
吉田修一さんによる同名小説(朝日新聞出版)が原作の映画「国宝」。歌舞伎役者の生涯を描いた圧巻の作品に惹き込まれ、実際に劇場へ行きたくなった皆さんへ。おすすめ演目を紹介します! AERA 2025年7月21日号より。
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「国宝」の余韻が冷めやらぬ友人たちから、こんな連絡が頻繁に来る。
「ホンモノの歌舞伎、見たいです。でも、何を見に行けばいいですか?」
歌舞伎に限らず、芝居、落語に講談は、とにかく最初が肝心である。ここで下手なものを見てしまうと、遠回りすることになる。私は自分が本当に良いと思うものしか勧めないことにしているが、歌舞伎は他のアートに比べて、二つほどリスクがある。
●価格が高い
●時に退屈な演目がある
正直、時間の進みが遅い演目はある。そんな演目をオススメしたら、信用されなくなってしまう。
料金に関しては、歌舞伎座は7月から料金が値上げされた。1等席は1万8千円、2等A席が1万5千円だ。他のエンタメと比較すると、この夏のTWICEのドームツアーの料金が1万5千円前後、宝塚歌劇(東京宝塚劇場)のS席が9500円、私が何人も沼に引きずりこんだ講談師・神田伯山の独演会が4千円ほどと考えると割高ではある。だからこそ、演目選びには慎重になる。
最初は奮発して1等席
とはいえ、最初だけはできれば役者の顔が見える1等席、2等A(いずれも1階)で見て欲しい。値段を考えると3階の3階A(6500円)か、3階B(5千円)という選択肢も出てくるのだが、3階だと没入感に欠けてしまう。見巧者になれば、3階でも舞台に十分集中できるようになるが、初心者だと舞台との距離感を埋めるのが難しい。最初こそ、奮発が鉄則だ。
さあ、いよいよ演目選定となるが、映画「国宝」ではめでたい口上の席(※)で衝撃の出来事が起きる。その口上が、7月にある。映画に出演した寺島しのぶさん(52)の実弟である八代目尾上菊五郎(47)と、その息子の六代目尾上菊之助(11)の襲名披露口上が大阪松竹座の夜の部で見られるのだ。
口上は頻繁に見られるというわけではないし、尾上菊五郎という大名跡の口上がどんな形で進行するのか、これは貴重な機会だ(10月の名古屋・御園座、12月の京都・南座でも襲名披露口上がある)。