
農水省の職員が「スーパーの棚に米はある」
全国的にも米の末端価格はじりじりと上昇していった。危機感を覚えた流通団体幹部は資料を作成し、24年3月上旬、農林水産省穀物課米流通改善班を訪ね、1時間弱にわたって状況を説明したという。
「ところが、農水省の職員は『スーパーの棚には米はある。米不足は起きていない』の一点張り。説明に全く耳を傾けてもらえなかったと聞いています」(同)
3カ月後の6月ごろ、「米不足」が報道されはじめ、夏にはスーパーの棚から米が消えた。
1年後の現在も農水省は、「スポット的に米不足が生じているものの、全体として米の供給量は足りている」という姿勢を崩さない。
メンツを守りたいだけ?
なぜ、農水省はこれほど頑ななのか。東京大学大学院・鈴木宣弘特任教授は、こう語る。
「つまりはメンツを守りたいのでしょう。『自分たちが行ってきた生産量の調整にミスはない』のだと」
国は1970年代から米の供給過剰を防ぎ、価格を維持するため、米の生産量を調整する減反政策を行ってきた。減反は2018年に廃止されたが、その後も農水省は米の「適正生産量」を公表し、自治体やJAが生産量の目安を各米農家に通知してきた。
鈴木特任教授はこう話す。
「農水省は机上の計算に頼りすぎ、現場の声に耳を傾けず、供給量を読み違えた。その誤りを認められず、政府備蓄米の放出も遅れ、傷口をさらに広げてしまった」
米農家や米店は「農政の失敗」と怒り
米は日本の大切な食文化のはずだ。なぜ対策が奏功せず、ここまでの混乱が続いているのか――。
米農家や米店の取材を始めると、「農政の失敗だ」「なぜ、農水省は謝れないのか」という憤りの声を繰り返し聞いた。
SNSのうわさや議員の発言、農水省の発表を、「きちんと検証せずに報道してきたマスコミも同罪だ」と厳しく非難されることも多かった。
生産の現場で何が起こっているのか。多くの消費者が知らない事情があるのか。コメ問題の真相を取材した内容をお届けしたい。
(AERA編集部・米倉昭仁)
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