稲穂が出る時期に猛暑が続くと米の出来に大きな悪影響を及ぼす=米倉昭仁撮影
稲穂が出る時期に猛暑が続くと米の出来に大きな悪影響を及ぼす=米倉昭仁撮影

手間暇かけて育てたのに規格外

「いわゆる『背白米(せじろまい)』ばかりでした。手間暇かけて育てたのに、『3等外(規格外)か』と、落ち込みました」(こずえさん)

 背白米は高温障害のひとつで、玄米の背中(胚がない側)の部分に白い筋が入ったものを指す。米の等級が下がれば、売値も下がる。笛木さんが父親から米農家を継いだのはその3年前で、すでに赤字経営だったが、前年より水田を3ヘクタール増やしたにもかかわらず約100万円の減収になった。

 米には「整粒歩合(せいりゅうぶあい)」という指標があり、高温障害などによる被害粒や未熟粒、欠け米や割れ米を除いた、形の整った米粒の割合を指す。米の等級はこの「整粒歩合」によって、1等米(整粒歩合が70%以上)、2等米(同60%以上)、3等米(同45%以上)、規格外米の4段階に分かれる。

 米の等級は農家の収入に直結する。1等コシヒカリは60キロ1万1500円、2等は同1万900円、3等は同9900円という具合だ(23年産米をあるJAに出荷した場合の価格の目安)。規格外米は、それよりもはるかに安い加工米や飼料米として卸される。

コシヒカリの1等米比率はわずか4.9%に

 米不足の発端となった23年は、猛暑の影響により、1等米の比率は全国60.9%と、前年を17.7ポイントも下回った。

 特に大きな打撃を受けたのが、作付面積、収穫量ともに全国一の新潟県産の米だ。同県の有識者会議「令和5年産米に関する研究会」によると、「米の品質は大幅に低下」。なかでも作付面積の6割以上を占めるコシヒカリの1等米比率は4.9%と、平年の約15分の1(平年は75.3%)と激しく落ち込んだのだ――。

 こうした「打撃」は局所的なものではなかったようだ。深刻な米不足の予兆は、23年10月時点で、現場に近いところでは捉えられていた。異変に気づいたのは、石破茂首相のお膝元、鳥取県の米問屋だった。状況は、ある米の流通団体に報告された。

「新米の時期なのに、他県からの米の入荷が鈍い。米不足が発生しているのではないか、という話でした」(流通団体の関係者)

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