
チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世は7月6日、90歳の誕生日を迎える。「次のダライ・ラマ選定」について、米中の狭間にあるチベット亡命政府が警戒を強めている。中国政治に詳しい研究者に話を聞いた。
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ダライ・ラマ14世 説法の声に張り
インド北部のダラムサラの山あいにあるダライ・ラマ14世の居所前。体育館ほどの広場には、数百人のチベット族や観光客が腰を下ろし、その人が現れるのを静かに待っていた。ただし、スマホやデジカメなどの電子機器は一切持ち込み禁止だ。
「ダライ・ラマ14世はゴルフカートの後部座席に乗って現れました。昨年6月、米国で膝の手術を受けたと報じられていますが、その影響か歩くには介助が必要でした。しかし、説法の声には高齢を感じさせない張りがあった」
昨年9月、中国共産党の少数民族政策が専門の研究者で慶応義塾大学の講師・金牧功大(かねまき・こうた)さんは、チベット亡命政府のあるダラムサラを訪れた。
「説法に集まった人々は和やかな雰囲気で、途中でチベット伝統のパンが配られた。それをちぎって、隣の人に渡す。意外とおいしかったです」(金牧さん)
ダライ・ラマの居所と法王庁の周囲はインド警察が厳重に警備し、またダライ・ラマ14世の身辺はスーツ姿のチベット族SPが固めていた。現地で聞き取り調査を行った金牧さんはこう話す。
「ダライ・ラマ本人は『すでに政界から引退した』と公言していますが、いまだに彼がチベット亡命政府のトップでもあると考えるチベット族は多い」
後継者選びとは「転生者」を探し出すこと
チベット仏教の指導者たちの選定は特殊だ。ダライ・ラマを含め高位の僧の「後継者」は「輪廻転生」の考えに基づいて認定される。後継者選びは、世襲でも選挙でも合議でもなく、転生者を探し出すことだ。
ダライ・ラマ14世もこのプロセスを経て1940年に4歳で即位した。59年の「ラサ大暴動」がきっかけとなり、インドに亡命した。今日にいたるまで多くのチベット族が後を追い、インドに渡った。ダラムサラの人々はダライ・ラマを敬愛し、家や商店に写真を掲げている人もいる。