ロシアで20年以上にわたり実権を握るプーチン氏。どのようにして現在の統治体制を築き上げたのか。その原点をとらえたドキュメンタリー映画「プーチンより愛を込めて」(4月21日から公開)を制作したヴィタリー・マンスキー監督は、プーチン氏が初めて大統領に就任した当時、国立テレビのドキュメンタリー映画部の部長だった。ウクライナ出身の監督が映画で伝えたいことは──。AERA 2023年4月24日号の記事を紹介する。
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ウラジーミル・プーチン氏は就任後早々に「対ファシズム勝利の軍旗」の使用を許可する法に署名。大統領府にソ連時代の赤旗が掲げられるようになったり、公的な場でソ連時代の国歌が流れるようになったりしたことにも疑問と不安を覚えたという。
そんなプーチン氏に、ヴィタリー・マンスキー監督はディレクターとしてではなく、一国民として切り込んでいく。
「国民の中には、国歌に反対する人もいる。あなたに投票した人たちの声ですよ!」
若きプーチン氏はカメラに向き合い、少し肩をすくめて言った。
「なぜこの歌をダメだと思うんだ? 自国の作曲家なのに。なぜ音楽にソ連を結びつけるのかがわからない。そして、国民の大半が懐かしく思っていることを認めなければ。国民からすべてを奪ってはいけない。過去をゴミとして捨てることは親世代に失礼だ」
また別の日には、
「20年前の生活を取り戻してほしい、という年配の女性が言う。ソ連国歌の復活は政治家の加点になる。支持率という点でね。だから『目標』をかなえるために必要だ」
と話してもいる。
ソ連時代の社会主義と決別したものの、大国としての復活は当初から目指していたといえる。それが14年ソチ五輪での国家ぐるみのドーピング、同年のウクライナ南部クリミア半島の併合、そして昨年2月からのウクライナ侵攻へと続くのだろう。
カメラは、再びボリス・エリツィン氏(07年死去)一家をとらえる。後継者指名からちょうど1年後、00年の大みそかだ。プーチン氏について問われ、エリツィン氏の口をついたのはたった一言だった。
「赤だ!」