「今、振り返っても悔しい」

 犯行がなかなか発覚しなかったのは女性の所持しているスマートフォンの電源を落とし、位置情報などが追跡できないようにしていたこともあった。

 その話を拘置所で聞くと、「今、振り返っても悔しい」と、白石死刑囚は天を仰いだ。9人目の被害者女性を殺害した際にスマートフォンの電源を切り忘れてしまったというのだ。

 そのスマートフォンを警視庁が追跡し、白石死刑囚の座間市の自宅を割り出し、捜査員が急襲した。

「9人目の女性の名前をあげて、知らないかと警察がやってきた。すると、でかい体の刑事が『お前がここに女、連れ込んでるのはわかってんだ』とインターホンのカメラに警察手帳を押し付ける。完全犯罪を続けていた自信が崩れ始めた。ちょっと粘ったが逃げれないとドアを開けると、何人もの刑事が部屋になだれ込んできた。頭部など遺体の一部を入れたクーラーボックスに目を付けられ、『これはなんだ』と追及された。完全犯罪が崩れ去った瞬間でした。あとは、刑事に聞かれると、素直に完全犯罪と思っていたストーリーを語るしかなかった」

「そんなすごいことだったのか」

 白石死刑囚に「反省は」と尋ねたことがある。

「やっぱり最後の女性のスマートフォンを切るのを忘れたこと。そこから追跡され、捕まってしまった。油断があった」

 と逮捕されたことへの「反省」を語り、こう続けた。

「裁判でも『反省は』と聞かれるでしょう。その思いもあるが、9人も殺してしまいどうやって言えばいいのか」
「どうせ死刑でしょう」

 2020年12月、東京地裁立川支部で死刑判決が言い渡された。弁護人は控訴をしたが、白石死刑囚本人が取り下げ、翌21年1月に死刑が確定した。

 白石死刑囚はこんな話もしていた。

「拘置所でラジオを聞いていると、トランプ大統領のニュースより先に、自分の事件が聞こえてくる。そんなすごいことだったのかと今になって気づいた」

 犯行についての「反省」は、最後まで語られなかった。

(編集部・今西憲之)

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