送検される福田裕容疑者
送検される福田裕容疑者
この記事の写真をすべて見る

 大阪の繁華街ミナミを舞台にした「地面師」事件。地面師たちが犯行の舞台に使ったビルの所有者は、以前、別の事件で世の中を騒がせたことがあった。

【写真】「地面師」事件の舞台となったミナミのビルは廃墟のようだった

*  *  *

 大阪府警は6月4日、偽造した免許証や書類を使ってミナミ(大阪市中央区)にあるビルの所有者になりすまし、不動産会社2社に売却して約14億5000万円を詐取した疑いで、福田裕容疑者(52)、粂(くめ)陵平容疑者(24)、70代女性、60代女性の4人を逮捕。大阪地検は6月25日、福田容疑者を詐欺罪で起訴した。

 「地面師」たちの手口は巧妙だった。

 ミナミのビルの実際の所有者は大阪市の不動産会社X社だが、福田容疑者ら犯行グループは、まずX社の女性社長Aさん(70代)に「カネを貸している」というニセの借用書を作成。それを大阪市内の区役所に示して、Aさんの住民票を取得した。債権の回収など正当な理由があれば、住民票を第三者が取得できる制度を悪用した。

 次に犯行グループの70代女性の写真を入れ込んだAさん名義の免許証を偽造。その偽造免許証を区役所に提示して、Aさんの印鑑登録を無断で変更した。そして、X社の代表がAさんから粂容疑者に変更したという内容のX社の臨時株主総会の議事録も偽造し、印鑑証明とともに法務局に提出。粂容疑者がX社の社長になりすますことに成功し、X社が所有するビル3棟を売りさばいた。

 これらは、Aさんが知らないところで進んでいた。記者が確認したところ、Aさん一族の経営する会社8社のうち、3社は犯行グループの名義に変更されていた。中には、福田容疑者の関係先の住所に本社が移転された会社もあった。

事件に使われたのは「廃墟」ビル

 「地面師」たちが売りさばいたX社の3つの物件はいずれもテナントビルで、大阪・ミナミの繫華街の「一等地」に位置する。だが、実際に現場を訪れると、ビルは閉鎖されて真っ暗で、人の気配もなく廃墟のようだ。

「いつかこんなことになるのではないかと思っていたんですよ。X社の本当の経営者Aさん一族は2人姉妹が中心で、ミナミで多数の不動産を所有する有名人なんですが、X社が所有する物件は、垂涎の立地なのに、多くが廃墟のようになっていたんです」

 X社をよく知るミナミの飲食店経営者はこう話した。

次のページ X社の社長が関与した大事件とは