
米・カリフォルニア州の都市フリーモントはアフガニスタン系アメリカ人が多く暮らす街だ。ドニヤ(アナイタ・ワリ・ザダ)もアフガニスタンから8カ月前にやってきた。孤独で単調な日々を送る彼女は、あるとき勤務先のフォーチュンクッキー工場でメッセージを書く仕事を任されて──? 映画「フォーチュンクッキー」のババク・ジャラリ監督に本作の見どころを聞いた。





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2014年、映画の撮影をしていたとき北米最大のアフガニスタン系コミュニティーがあるフリーモントを知りました。単純に「美味しいアフガニスタン料理を食べたい!」と訪れたのですが、そこで故郷で英語の通訳をしていたという人たちと出会いました。彼らは祖国ではリスキーな立場にあり、かつ米国に渡っても「米国のために働いた裏切り者」と見られてしまうという。そのなかで新しい人生を作っていかなければならないと聞き、この物語を構想しました。
本作を「オフビートな感覚や笑いがある」と言ってもらえるのは嬉しいです。アフガニスタンの状況や特に女性について描いた作品には悲壮なものが多い。でもそれはニュースを見ればわかることですよね。私は90分間、主人公を観客が憐れむような作品は作りたくなかったんです。「可哀想な人たち」と思うことはつまり「自分とは違う世界で生きている人たち」と思ってしまうということ。そうではなく「自分と同じ人間なのだ」と感じてもらいたかったのです。

21年のタリバン政権復活時に国外脱出の飛行機に殺到する人々の様子がニュース映像で世界中に流れました。本作でドニヤを演じるアナイタもそのときに米国にやってきました。俳優経験はなかったのですが、彼女はつらい過去を振り返るだけではなく、前を向いて今を生きようとしていた。そのメンタリティーが物語に共鳴し、この映画に生きたと思っています。
私はイラン出身で8歳からイギリスで暮らし、英国のパスポートを持っています。でも自分を英国人だとは一度も思ったことはありません。愛国主義とは違いますが、常にどこかアウトサイダーな感覚があり、描く題材も移民などが多い。創造にルーツが影響を与えているのは間違いないと思います。
(取材/文・中村千晶)
※AERA 2025年6月30日号
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