
うっすらと転職を意識してから3年で
「働き方」を考える上で、格好の比較対象が当時の職場だった。漠然と「ここではないどこか」ではなく、具体的に「ここよりも働きやすい会社」に的を絞ることで転職活動に弾みがついた。仕事が終わる深夜の時間帯に採用担当者と面談を重ね、男性は昨年、他業界に転職した。
うっすらと転職を意識し始めた入社1年目の5月頃から、実際に転職するまでほぼ3年が経過していた。5社の候補の中から最終的に今の職場を選んだ決め手は「働き方」だったという。男性は自身の経験を踏まえ、「ゆる転職活動」をこう評価する。
「『転職したいけど先行きが見えなくて勇気が出ない』という人や、いまの仕事を頑張りつつも“転職”という逃げ道を作っておいて、いざとなったら逃げこみたい、という人が選択するのだと思います。特に若手は現状の業務で手一杯のところに、『早く転職先を見つけなければ』という焦りが加わると、冷静な判断ができなくなるリスクがあるため、『ゆる転職』を選んだほうがメンタルも安定し、よい結果につながると思います」
転職市場で自分の市場価値を見極める
とはいえ、社内でパワハラなどを受けている人は、「ゆる転職活動」をしている心の余裕などないかもしれない。しかしそうではない場合、「ゆる転職活動」の優位性は最大限生かすに越したことはない。
「すぐに辞めたいという気持ちに傾かなかったからこそ、転職活動でも自分の市場価値を冷静に判断できたのがよかったと思います」
こう振り返るのは、20年に広告会社の営業職に新卒で入社した20代女性だ。
転職を意識したのは入社3年目の5月。入社したての頃は、毎日が新しい発見の連続で楽しかった。しかし、クライアントの業績によって収入が大きく左右される現実に直面し、個人の営業努力を続けるのが虚しくなり、徐々にストレスが募った。
日々の業務は転職面接に役に立つ
女性は複数の転職サイトに登録。休日には大型書店で缶詰になり、自己啓発や転職に関する書籍を読みあさった。「このまま今の会社にいるのは良くないかも」と思いつつ、「ゆる転職」を選んだ理由について女性はこう話す。
「転職を考え始めたタイミングでこれまでと違う業務を任されたのと、転職経験のある先輩から『社会人経験が3年以上になると、2年目よりもぐんと求人数が増える』とアドバイスされたことが大きかったと思います。転職時に有利になるよう、もう少しいまの業務を続けてみようと考えました」
面接を繰り返し、転職活動の内実に詳しくなればなるほど、「いまの業務」が役に立つことが分かった。女性は「日々の業務は転職面接に強くなるための準備期間だと思えばいい」と気づいたという。どういうことか。
転職面接で必ず聞かれるのが、「業務を通じてどんな経験をしてきたか」という質問。とりわけ、「失敗した経験を次の機会にどう生かしたか」という経験談は面接担当者の受けがよかった。
「普段の業務をしながら、このエピソードを面接で話せば相手に刺さるだろうな、とリアルタイムで実感できるようになると、具体的な体験談を説得力のある形で話せるようになり、『実務経験』のある社会人としての蓄積やアピール力が増していきました」
日々の業務で経験したことは全て「転職面接時のアピール材料につながる」と考えれば、もう少し事例を増やそうと思うようになり、ますます転職を急がなくなった。気が付くと、約10社の面接を受けていた。繁忙期で1社も面接を受けられない月もあれば、立て続けに3社の面接を受けた月も。面接担当者にアピールするツボを押さえられるようになり、面接をパスする確率もどんどん上がっていったという。