
博士はこう指摘する。「人はみな父と母から生まれ大多数はその親に育てられますが、養子は自分が大多数と違うことに時に深い孤立感を覚えます。私自身も葛藤を経て養子の仲間と出会い、共に活動することで自分の経験を社会に還元したいと思うようになった。この研究が、養子たちが豊かな人生を送る一助になればと願っています」
国内では、生殖補助医療で生まれた子や、妊娠を知られたくない女性が匿名で出産する「内密出産」でも同権利の保障をめぐる議論が続いている。内密出産を行う熊本市の慈恵病院が同市と設置した検討会は今年3月に報告書をまとめ、国による権利の保障と法制化、出自情報の一元管理や開示ルールの設計を提言した。養子縁組の家族形成を25年にわたり研究し、検討会の座長を務めた日本医療大学の森和子教授(児童家庭福祉)は言う。
「養子は共に暮らす養親と記憶にない実親という2組の親を持つ子としてアイデンティティーを形成していく。実親から譲り受けた遺伝的情報と実親に関する情報の欠落は自己の形成の阻害要因になることがあります。一方で緊急下の妊娠・出産では母子の命と健康を守るため産む側のプライバシーを十分に尊重する必要があり、二つの権利を保障する丁寧な対応が求められています」
検討会の調査では養子たちからピアサポートを求める声が多く出たという。1歳の時、民間の養子縁組団体の仲介で育て親家庭に迎えられた千葉県の会社員、中村力(りき)さん(23)は「自分の経験が誰かの役に立つなら」との思いから、志村さんらと「特別養子当事者団体ツバメ」を結成した。住む場所や縁組の経緯に関わらず、養子同士の交流を増やしていきたいという。
(ライター、社会福祉士・後藤絵里)
※AERA 2025年6月23日号より抜粋
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