
養子縁組の記録は戸籍のほか、縁組審判の調査報告書や審判書にも記される。ただし調査報告書は5年、審判書は30年で破棄され、ケースによって得られる情報の多寡も異なる。養子が成人した時、どれだけの情報が手元にあるかは各家庭や関係機関の裁量による部分も大きい。
Yusukeさんは自分の縁組を仲介した児童相談所に出生の情報を求めに行ったが、生み親の情報は「個人情報なので本人の同意がないと教えられない」と言われたという。調査報告書はすでに廃棄されていた。志村さんは「養子縁組は子どもの選択ではないのに、出生情報を得る苦労を養子に負わせるのはおかしい。公的な機関が情報を一元管理すれば多くの当事者の安心感につながるのでは」と話す。
志村さん自身は生後8カ月で縁組され、幼い頃から養子だと聞かされていた。自分を10代で産んだ母の名前や出身地は知っているが出自の経緯にはあまり興味はないと言う。「今に満足しているし、知ったところで過去は変わらない」。ただ自分の出自を知ることは誰もが持つ権利だと考えている。「生みの親と育ての親が同じ人は家族や親戚から当たり前に出生の情報を聞けますが、私たちはそうではありません」(志村さん)
特別養子縁組は基本的に大人の判断で成立し、当事者の子どもはそのプロセスに加わることができない。「だからこそ、当時どんな状況でどのように成立したかを子どもが後から確認できる仕組みが必要です。自分が判断していないことで人生に見えない部分があることに非常に強い違和感を覚えます」と志村さんは話す。
「出自を知る権利」は日本も批准する国連子どもの権利条約に規定されている。国内には明文化する法律がないが、当事者による研究や発信活動は海外で盛んに行われてきた。
養子のアイデンティティー、深い孤立感を覚えることも
韓国で生まれ幼い頃に白人家庭の養子になった米マサチューセッツ大学アマースト校のホリー・マギニス博士(社会福祉学)は、様々なルーツを持つ養子への調査から、幼少期の体験や他の養子との交流が養子の自己形成や心身の健康にどう影響するかを調べ、その多様な人生を描く研究プロジェクトに取り組んでいる。