『出獄記』(2090円〈税込み〉/ポプラ社)著者が自らの服役体験から「更生」よりも「処罰」に傾く日本の刑務所のあり方に疑問を持ち、二十数年にわたって見つめ続けてきた刑務所の現場について、ノンフィクションとフィクションを交えて描き出した作品。死刑囚、刑務官、外国人受刑者、家族、福祉関係者などさまざまな視点から書かれた本書は、日本社会が見つめるべき現実と希望を提示している

「事件を起こした頃は若くして衆議院議員に連続当選したこともあり、謙虚さを失っていたのです。苦しい体験もしましたが、議員時代より今の方がやりがいもあり、楽しいですし、現場の皆さんとダイレクトに協力しながら厚生労働省や法務省を動かしてきたことで制度改革も実態を伴うものになってきたと思います」

『出獄記』を読んで思うのは、日本の法務行政が刑務所の「更生を促して再犯を防ぐ」という役割を長年軽視してきたことだ。本来最も大切にすべきことをおろそかにする──それは人権意識が本当の意味で日本社会に根付いていないことを示しているのではないか。厳しい処遇によって社会への反抗心をたぎらせたまま刑務所を出ても、社会に居場所はなく、舞い戻る受刑者は後を絶たないという。

 現在、先進国の多くは刑務所を、作業をさせる「懲役」ではなく「拘禁」の場としている。ノルウェーでは77人を射殺した過激思想のテロリストが刑務所に入ったが、刑期は最高刑の禁錮21年である。

「あの事件の時はさすがにノルウェー社会も厳罰化すべきという声が増えましたが、『その通りにしたらテロリストが願う不寛容な社会を認めてしまう』と政府が踏ん張りました。さらに寛容政策を続け、刑務所内部の環境もプライベートを重視し人道的にしたんです。その結果、みるみるうちに再犯率が減りました」

 日本でも山本さんらの活動の結果、この6月1日から刑務所が「拘禁刑」に変わった。受刑者の特性や意向を考慮した柔軟な処遇により、更生や社会復帰を進めようという動きだ。これは日本社会の歴史的大転換である。本書はなぜそうなったのかを知り、考えるきっかけとなるだろう。

(ライター・千葉望)

AERA 2025年6月23日号

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