
ところが、今年1月『僕には鳥の言葉がわかる』が出版されると状況が一変。子どもから大人まで楽しめる自然科学の本として大ベストセラーになり、今も勢いは衰えない。第13回河合隼雄学芸賞も受賞したばかり。メディアの取材も殺到し、今では「多くの人が知っている研究者」になった。
桐朋中学を選んだ理由は「林で昆虫採集ができる」
鈴木が忙しい時間を割いて取材を受けるのは、彼の大好きなシジュウカラの能力と魅力を多くの人に知ってもらいたいからだ。2月に東京・池袋にある書店ジュンク堂で開かれたトークとサイン会は鈴木ファンで席が埋まった。
鈴木は東京生まれ。父の基晴(73)、母の幸代(70)、2歳上の姉との4人家族である。
「2歳ぐらいの時からそのあたりにいるアリを指で捕まえようとして、中腰のまま追いかけるんです。アリは速いから捕まらないんですが、とにかく毎日毎日飽きずにそうしてました」(幸代)

その後鈴木が成長するにつれ、外で捕まえてきた生き物を持ち帰っては飼い始めるので、家の中は常にプラケースや水槽でいっぱいだった。
一家は鈴木が幼稚園に上がる前に、基晴の出身地である茨城県古河市に転居した。住んでいた家が幹線道路に近く、子どもたちが喘息気味になり、彼らを自然豊かなところで育てたいと考えたことが理由だった。その代わり都心勤務だった基晴の通勤時間は2時間近くにもなった。
その後基晴の転勤に合わせて引っ越しもしたが、姉が私立中学に入るタイミングで東京へ戻った。
「俊貴も中学受験をしたいと言い出し、いくつかの候補を見た後で中高一貫校の桐朋中学に入りました。その理由が学校の裏に『みや林』があること。『ここなら好きなだけ昆虫採集ができる!』って(笑)。受験の面接の時も『将来の夢は生物学者です!』と言ってましたね」(幸代)