後にこの話に尾ひれがついて、「ミスターは振り逃げのルールを知らなかった」とする“伝説”が生まれたが、真相はやや異なる。
「僕は(三振で)アウトだと思っていたら、ベンチから“走れ、走れ!”と言うので、おかしいと思いながら、とにかく走ったんだ。走ってもダメなことは知っていたんだよ」
この証言のとおりなら、勘違いしていたのは、ベンチの巨人ナインのほうだったことになるが……。
試合開始早々こんなケチがつくと、打撃にも影響が出るのか、長嶋は4回無死二塁のチャンスにも凡退。けっして好調とはいえない板東をなかなか攻略できない。
巨人は5回に王の押し出し四球で2対0とリードを広げ、なおも1死満塁で打席に立った長嶋は、カウント2-2から引っ込めようとしたバットにボールが当たり、不運にも遊ゴロになった。
だが、王が二封される間に全力で一塁ベースを駆け抜けて併殺を防ぎ、貴重な3点目を“足”で稼ぎ出す。これがモノを言って、巨人は3対2の逃げ切り勝ち。翌日の新聞には「長嶋、シブい打点」の見出しが躍った。
(文・久保田龍雄)
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