
声を上げても無駄だと感じたことも影響していると思います。当時の「DAYS JAPAN」編集部は、まさに“ミニフジテレビ”。非常にトップダウンな組織でした。編集長が若い女の子を指名して仕事に同行させる行為を繰り返しても黙認される。とても彼の性暴力について相談できませんでした。被害者の中には、信頼する関係者から「黙っていろ」と口封じをされて、深く傷ついた方もいました。
いつか顔と名前を出す
──今年2月、メディアNPO「Dialogue for People」のサイト上で、実名で性被害を公表したのはなぜですか。
実名公表はあくまで私の選択であって、他の被害者の方に勧める意図はありません。私の場合、社会に発信できる立場にいる以上、いつかは顔と名前を出して公表しなければいけないと思っていました。でも加害者への恐怖は根深く、彼が亡くなった後に公表することも考えたのですが、どこか卑怯な気もして……。
そんな中、広河氏は文藝春秋を名誉毀損で訴え、東京地裁は今年1月に広河氏の主張を一部認める判決を出したのです。広河氏は自身のFacebookで「『勝訴』だったと言えると思います」とコメントしました。判決や広河氏の言葉を受け、記事や被害者の存在自体が虚偽だと決めつけるような言説が広がり、危機感を覚えたんですね。被害に遭った一人の人間がいることを示さなければいけないと、実名公表を決意しました。
(構成/編集部・大谷百合絵)
※AERA 2025年6月2日号より抜粋
こちらの記事もおすすめ 「性被害者のトラウマ軽視は違う。組織を去るべきは性暴力の加害者」 自身の経験踏まえ語る