おもちゃやSPIRAL:オーナーの高橋香代子さん(写真上・左)とスタッフの田村麗さん。アメリカで買い付けたビンテージトイや雑貨を取り扱う。創業27年の老舗店。自分だけの“宝物”を探せるのが魅力(撮影:倉田貴志)

「怪しいし、怖いけど、ちょっとかわいい。かわいいにバランスが偏りすぎていなくて、怖さがかっこよさでもあると思います」

 怖いけどかわいい+アメリカで買い付けられた1点モノのビンテージ。これが唯一無二の魅力だと感じる人もいるだろう。

 それにしても、E.T.などビンテージぬいぐるみとスイーツを一緒に撮る、という人もいるという。高橋さんは、お客さんに「どうしてぬいぐるみを連れて歩くんですか」と聞いたことがある。

「SNSに写真をアップしたいけれど、自分は出たくないそうなんです」

おもちゃやSPIRAL:アメリカで買い付けたビンテージトイや雑貨を取り扱う。創業27年の老舗店。自分だけの“宝物”を探せるのが魅力(撮影:倉田貴志)

時間を過ごし分身に

 だけどスイーツの写真だけアップするのは違う。

「『この子』と一緒に撮りたいそうなんです」(高橋さん)

 ぬいぐるみと時間を過ごすうちに、自分の「分身」になっていくのではないか。たしかに、ぬい撮りの写真は、ぬいぐるみ自身が、旅を、食事を楽しみ、今にもしゃべりだしそうに見える。

 人形文化研究者で早稲田大学准教授の菊地浩平さんは、ぬい活ブームの背景を語る。

サッカーや野球に比べて、ぬいぐるみは趣味のヒエラルキーが低いため、大きくなったら『卒業しないといけない』という社会的な圧力がありました」

 だがSNSでぬいぐるみ好きの交流が生まれ、ぬいぐるみについて発言しやすくなった。

「卒業という『呪い』がなくなってきました」(菊地さん)

 卒業という呪いが解けたぬいぐるみ好きはどこへ向かうのか。

 生命を与えた以上、ぬいぐるみは生き続ける。菊地さんが40代以上から圧倒的に質問されるのは「自分の死後のぬいぐるみの扱い」だという。人に譲るべきか、自分の棺に入れるべきか。化学繊維が使われているので人形供養も難しい。割り切れない思いを抱える人は多い。

「信仰心や死生観に通じる、スケールの大きな問いだと思います。ぬいぐるみを愛することは、人生に向き合うことでもあるのです」(菊地さん)

(編集部・井上有紀子)

AERA 2025年5月26日号より抜粋

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