
「怪しいし、怖いけど、ちょっとかわいい。かわいいにバランスが偏りすぎていなくて、怖さがかっこよさでもあると思います」
怖いけどかわいい+アメリカで買い付けられた1点モノのビンテージ。これが唯一無二の魅力だと感じる人もいるだろう。
それにしても、E.T.などビンテージぬいぐるみとスイーツを一緒に撮る、という人もいるという。高橋さんは、お客さんに「どうしてぬいぐるみを連れて歩くんですか」と聞いたことがある。
「SNSに写真をアップしたいけれど、自分は出たくないそうなんです」

時間を過ごし分身に
だけどスイーツの写真だけアップするのは違う。
「『この子』と一緒に撮りたいそうなんです」(高橋さん)
ぬいぐるみと時間を過ごすうちに、自分の「分身」になっていくのではないか。たしかに、ぬい撮りの写真は、ぬいぐるみ自身が、旅を、食事を楽しみ、今にもしゃべりだしそうに見える。
人形文化研究者で早稲田大学准教授の菊地浩平さんは、ぬい活ブームの背景を語る。
「サッカーや野球に比べて、ぬいぐるみは趣味のヒエラルキーが低いため、大きくなったら『卒業しないといけない』という社会的な圧力がありました」
だがSNSでぬいぐるみ好きの交流が生まれ、ぬいぐるみについて発言しやすくなった。
「卒業という『呪い』がなくなってきました」(菊地さん)
卒業という呪いが解けたぬいぐるみ好きはどこへ向かうのか。
生命を与えた以上、ぬいぐるみは生き続ける。菊地さんが40代以上から圧倒的に質問されるのは「自分の死後のぬいぐるみの扱い」だという。人に譲るべきか、自分の棺に入れるべきか。化学繊維が使われているので人形供養も難しい。割り切れない思いを抱える人は多い。
「信仰心や死生観に通じる、スケールの大きな問いだと思います。ぬいぐるみを愛することは、人生に向き合うことでもあるのです」(菊地さん)
(編集部・井上有紀子)
※AERA 2025年5月26日号より抜粋
こちらの記事もおすすめ ぬいぐるみ市場が活況、大人でも持ち歩く時代に 忙しい人こそオススメ「ぬい活」の魅力