どこに行ったんでしょうね? まあ、でも結局選ばれなかったから。そしてそれは100%自分のせいだっていうのも分かっているから。人のせいにすることもできなかった。なんだろうな、超ベタですけど、年齢とかもあるのかな。とにかく、同世代や後輩がガンガン売れていく様を見続けて、それに対しても「ちくしょう」じゃなくなってたし、当然だろうなって思うようになっていった。本当に、どこに行ったんでしょうね。

古舘佑太郎さん/撮影・松永卓也(写真映像部)

僕だけが唯一ワクワクしてる

――古舘さんは2を始めた17年にNHK連続テレビ小説「ひよっこ」に出演して。それと前後して俳優の仕事もどんどん増えていきました。そうやって表現の幅が広がったことも大きかったんでしょうか?

 最初は「日々ロック」という映画にThe SALOVERSとして出たんですけど、その時はただ楽しいだけだったんです。でも2の時に事務所に入ってからは本気になった。バンドとして上に行きたいっていう時期だったので、自分がメディアに出ることで2を知ってもらえるんじゃないかっていうのがあったんです。なりふり構わず、自分の何かで目立つことでバンドとしても成功するんだって、当時は言ってたんですよ。やっていけばやっていくほど、テンション芸では乗り越えられない世界だということを目の当たりにして悩みが生まれてきましたけど、バンドと役者では使う筋肉が違うから、それは良かったですね。両方やっていることが当時は必要でした。

――今はどうですか?

 今はもう、自分が何者なのか分かっていないんですよ。だからあまり考えていないですね。

――その状態は古舘さんにとってはいいことなんですか? 悪いことなんですか?

 僕はめっちゃ面白いと思ってるんですけど、心配する人はいっぱいいます。「どうなっていくの? 何やってるの?」って。だから僕だけが唯一ワクワクしてる感じだと思います。ある種すごく身軽になった部分もあるんで、自分としては全然ネガティブな印象はないんですけど、でも心配はかけるでしょうね。

――「生まれた瞬間から『何者か』だった」というのがあらゆるコンプレックスのスタートだったというお話がありましたけど、それがここに来て「何者なのか分からない」状態になれてワクワクしているというのは面白いですね。

 たぶん、僕が感じてきたコンプレックスって、もう心に「和彫り」で入っているんですよ(笑)。だから擦っても取れない。それを一生懸命隠そうとしてたけど、今はそのコンプレックスをいかにかっこよく、おしゃれに、面白く見せるかっていうところに気持ちが変わっていて。

 僕はコンプレックスを乗り越えたんじゃなくて、「コンプレックスが自分の個性なんだ」と思ったんですよ。捉え方を変えた。「コンプレックスを乗り越える」ってなったら、コンプレックスがなくなることを意味するじゃないですか。でも、僕は今も「二世」扱いされるし、それは変わっていないんです。同じように、今自分が何をしてもThe SALOVERSでの後悔は変わらないし、2だってそう。それが変わらないなら、乗り越えたんじゃないと思うんです。それをオリジナリティーに変えたということなんだと思います。そう思ったらすごくスッキリした。

 渋谷クラブクアトロのライブで「面白い」と思えたという話をしましたけど、それもバンドをやっていたからだし、ファンがいてくれたからなんですよ。だからやっぱりバンドをやっていたことは一生の宝物だなと思いますね。

――じゃあ、またバンドやります?

 いや……誰からも信じてもらえないんですけど、「バンドは一生やらない」って、また言ってるんですよ。

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