
注目対局や将棋界の動向について紹介する「今週の一局 ニュースな将棋」。専門的な視点から解説します。AERA2025年5月19日号より。
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5月3~5日、神奈川県川崎市において、第35回世界コンピュータ将棋選手権がおこなわれた。51チームが参加した大会は数々の激闘を経て、最後は杉村達也さんらが開発した「水匠(すいしょう)」が初優勝を果たした。
「今回優勝できたのは、もちろん自分の力だけではなくって。皆さんが、いろいろな工夫を公開してくれた」「いろんな人の協力をいただきまして、強いAIが作れたのかなというふうに思っております」
表彰式で杉村さんはそう語っていた。開発者同士の関係はよきライバルであるとともに、よき協力者だ。優れた成果がオープンにされることによって、コンピュータ将棋は飛躍的に強くなってきた。
「将棋は神ゲー」
それが将棋を愛する者にとっての合言葉だ。将棋のルールは神が創ったかのように、ゲームバランスに優れている。先手、後手の優位性の差もほとんどなく、長い間、先手の勝率は5割2分前後で推移してきた。しかし本大会。
「将棋はもしかしたら先手ゲーでは?」
という声が聞かれ始めた。先手の優位性がはっきりし、中には事前に用意された「定跡」通りに進み、消費時間0秒!で相手玉を詰まして勝ちという対局まで現れた。トップ8チーム総当たりの決勝では、先手勝率は7割3分にも達した。もしかしたら遠くない将来、「将棋は先手必勝」という結論が出るのではないかという声もささやかれている。
しかしまた何十年も経ってみれば、後手の側が押し返し、結論などが出るには到底至っておらず「やっぱり将棋は神ゲー」という言葉が聞かれているのかもしれない。
水匠は今回、アマチュア級位者向けの解説文を自動生成するシステムも開発して「独創賞特別賞」も受賞した。難しい将棋をわかりやすく解説するAIも現在、発展途上の段階にある。(ライター・松本博文)
※AERA 2025年5月19日号
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